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特集

来たれ!TPP【前編・基本講座】


一体どういうことか。豚肉には差額関税と呼ばれる特殊な制度がある。
まずは分岐点価格が設定される(1kg当たり524円)。分岐点を超える豚肉には一律4.3%の関税がかけられる。それより安い豚肉の場合、その分岐点価格に4.3%分の関税を上乗せした546.5円と輸入価格の差額が関税として徴収される。65円未満の安い肉の場合、一律1kg482円の関税(従量税)がかかる。つまり、どんなに安い肉を輸入しようとも国内の流通価格は1kg当たり482円を上回る。安い外国産から国内の養豚家を保護するには鉄壁な制度に見えるが、そんなに単純ではない。
この制度の最大の問題点は、基準価格内では価格が高いほど税率が下がる点にある。別の言い方をすると、安い肉も高い肉も差額関税によって、強制的に同じ価格にする仕組みだ。輸入業者はそれでは商売にならない。そこで、「安いものを安いまま」輸入するにはどうしたらいいかを考える。簡単である。税関では安い肉の価格を偽ってつり上げ、基準価格と同額で申告すればいい。そうすれば差額関税はゼロになり、支払う関税は4.3%だけで済む。もちろん脱税だ。“裏ポーク”“闇ポーク”と呼ばれる世界の話である。本当にそんなことが行なわれているのか。
図2をご覧いただきたい。豚肉の平均輸入価格推移である。冷凍肉も生鮮(チルド)肉もほとんどすべて同じ価格で推移している。その額は524円の近似値だ。524円とは課税額が4.3%と最小になる(逆にいえば脱税額が最大になる)輸入単価である。4.3%とは冒頭の平均関税23円と同額である。つまり、毎年7、80万tほど、金額にして4000億円前後も輸入される巨大商品において、業者が無数におり、品質も多種多様にもかかわらず、平均価格が毎年一定とは異様だ。
次に図3に注目いただきたい。輸入豚肉のなかで、最もシェアの高いアメリカの国内豚肉価格の推移である。その価格は大きく変動しているにもかかわらず、図2のとおり輸入価格は見事に一定である。しかも、アメリカ産の実勢価格は日本の輸入額の約3分の1前後で推移している。
輸入価格がそろっている点について、農水省はこう弁明する。
「コンビネーション輸入(価格の高い部位と安い部位を組み合わせて分岐点に近い価格で輸入)するケースが多い。したがって、部位的に見れば、分岐点価格を下回るような部位が国内で取引されることもありうるが、高価格部位も合わせて輸入する必要があることから、結果的に低価格部位の輸入抑制効果が発揮される」(同省資料「豚肉の差額関税制度について」)。この説明が事実であれば、【農水省の説明】ももっともらしいがその論理は破たんしている。

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