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特集

来たれ!TPP【前編・基本講座】


最後の変数は、中堅大手メーカーのコンプライアンスの観点だ。もしばれたときの信用失墜コストに比べれば、脱税コストより高くても、まっとうな税金=関税(これもコスト)を払っておきたい心理が働く。税金コストと脱税コストが天秤にかけられるのだ。さらには、どの大手企業が脱税体質から一抜けするかの心理戦もある。最後のババを誰も引きたくない。その意味では、脱税コストの心理的インフレが今後起こってくると筆者は見る。仮に現状の脱税コストが業界相場の最低kg20円、輸入価格が300円だと想定しよう。表1のとおり、税金コストはといえば、TPP発効年は従量税(差額関税)125円+従価税2.2%(=分岐点価格であれば約12円)となる。脱税したときとのコスト差は113円だ。20円の脱税コストをかけたとしても、1kg当たり93円とお得である。天秤にかければ、脱税を選ぶとみるのが順当だろう。発効後5年後はその58円、10年後は50円となる。脱税コストとの差はそれぞれ38円、30円である。これぐらいならコンプライアンス経費と大企業が見なすことは十分考えられる。たとえば、大手1社が足を洗えば、他社も一気に追随する。ゲームチェンジ(世の中の制度やルールの変革のこと。ここでは豚肉ビジネスの脱税常態化から合法常態化への急激な切り替わり)だ。そうすると豚肉ビジネスのゲームのルールは大きく変わる。大手が直接輸入に関与するようになる。ここで、めでたしめでたしとはならない。これまで汚れ役を演じていた業者や個人が失業する。捨てられるわけだ。彼らが足を洗うか、それともさらに“闇ポーク”の世界を突き進むか。はたまた、培ってきた現地加工ノウハウなどを駆使して大手が追随できないニッチビジネスの領域に進出するか。誰にもわからない。
本誌読者の養豚家はごくわずかだろう。それでも、TPP特集の1回目に豚肉を取り上げたのにはわけがある。国家が貿易に少しでも介入するとこうなる、という生きた例を示したかったからだ。各者の利害が交錯し、ビジネスが不透明化するのだ。不透明どころか、ダークビジネスといっても過言ではない。国家介入とはその欠陥が社会主義国の崩壊で証明されたとおりである。

自由を安定のために
犠牲にすれば落ちぶれる

農水省には差額関税を設計した1970年当初、社会主義国がそうだったように、「養豚家を保護してやりたい」との誠実さはあったのだろう。筆者はそこは疑わない。それがなければ、こんな複雑怪奇な制度設計などできやしない。いまも養豚団体は、農水省の誠実さ、財務省の誠実さに訴えて、その取締強化、厳罰化を求めている。しかし、誠実さほど過大評価されている美徳はない。

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