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しかし、TMRセンターという再び集約的な方策をとることに、矛盾を感じてもいた。
石川自身は、有機酪農というきっかけを得て酪農経営の原点に戻っていた。放牧を取り入れ、土づくりから飼料生産を見直し、循環型農業の実現に向けた試行錯誤。たとえば町外から持ち込んでいた鶏糞を使わなくても、牛糞堆肥を中心にトウモロコシや牧草を安定的に生産できる技術を身に付けてきたわけだ。
ところが、TMRセンターに供給する飼料となれば、仲間が同じ方法で生産するというルールが発生する。有機由来の資材だが、鶏糞は津別では手に入らない。個人的には使いたくない鶏糞も再び使用しなければならなくなったのである。
新しい取り組みを始めれば、常に大小さまざまな課題がわきあがってくる。そのなかで、どの利害を選択し、バランスをとっていくのか。まだ、飼料生産についても、購入飼料の調達、TMRセンターの運用にも、有機酪農の形が定まったわけではない。
仲間がいるから
乳価交渉できるから面白い
酪農という仕事が好きかと尋ねると、石川は即答しなかった。間を置いてから、「面白いと感じるようになったのは、一緒に新しい取り組みに挑戦する仲間ができたこと、そして研究会の副会長として明治乳業の担当者との乳価交渉に関わったことが大きい」と話してくれた。
日本の酪農は、飼料メーカーから餌を購入して牛を育てて、搾乳し、決められた乳価で出荷するというスタイルが主流である。それに対して、明治乳業が提示したのは、通常の乳価にインセンティブを加えた、プレミアム乳価で買い取るという契約だった。年に一度、いまでも契約更新が行なわれている。これがいかに画期的で特別なことかは想像に難くない。この交渉を機に、担当者との間に信頼関係を確信し、一連の取り組みにより自信を持ったという。
石川は「この取り組みは、ほぼ全部、明治乳業さんのおかげですよ」と微笑む。その言葉のとおり、この有機酪農への取り組みは、飼料の有機栽培を始めた酪農家の挑戦であり、明治乳業という乳業メーカーの挑戦でもある。
生産者だけでは成し遂げられないことを、加工・流通側とともに歩く。一時のブームで終わらせることなく継続してきたからこそ、流通量が拡大しマーケットが拡大する。そして、継続して出荷できるからこそ、生産側も新たな投資に踏み切れるという信頼関係が成り立っている。
我が国の消費者の持つ「有機」のイメージは、いまだに「身体にやさしい」「健康にいい」が圧倒的である。しかし、生産現場では、ヨーロッパと同様に環境に負荷をかけずに、いかに継続的に事業を続けるかがテーマにある。
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石川賢一 イシカワケンイチ
津別町有機酪農研究会 会長
石川ファーム 代表
1970年、北海道津別町生まれ。地元の農業高校を卒業後、大樹町で1年間研修、カナダでの10カ月実習を経て、石川ファームに就農。1999年、父が60歳になったのを機に30歳で経営委譲。同年、町内の有志で立ち上げた有機酪農研究会に参画。副会長を経て、現在は会長を務める。石川ファームの経営概要は、秋小麦10ha、経産牛43頭(1頭当たり平均乳量8,500?9,000kg/年)、放牧地10ha、採草地35ha、デントコーン15ha(そのうちイアコーンは3ha)。
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