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新・農業経営者ルポ

「経営は規模ではない」農家から米メーカーへの道のり

山形県南陽市で稲作に特化した経営を展開する(株)黒澤ファームの代表である黒澤信彦(51)は「うちはコメのメーカー」と言い切る。作っているのは、農産物ではなく、あくまでも商品であるという自負がそこにはある。顧客志向を追求することで、経営面積は17haながら年商は1億4000万円。「経営は規模ではない」ということを地で行く。 文/窪田新之助、写真提供/(株)黒澤ファーム
JR山形新幹線の赤湯駅に降り立ったのは3月半ば。ここ置賜(おきたま)地方であれば、てっきり雪がかなり降っているかと案じていたが、杞憂だった。少し目を凝らさなければ気づかないほどに、小雪がごくわずかに舞い散る程度。駅でたまたま話をすることになった地元の人によれば、暖冬の影響で今年は雪下ろしを一度もしなかったそうだ。それでも春の訪れにはもう少し時間がかかると感じられるほどに寒く、町を取り囲む山々は枯れている。
駅まで迎えに来てくれた黒澤が運転する車の中でそんな景色を眺めながら、10分ほどしたところで、事前に写真で確認していた黒澤ファームが見えてきた。広々とした敷地に、真新しい深緑の外観の事務所兼精米工場が堂々と立っている。2014年に自費で施工したこの建物の外壁は植物の葉をイメージしたそうだ。事務所で話を聞く前に、一つ屋根の下にあるコメの低温倉庫と乾燥調製施設に案内してもらった。
建物内部の基調をなすのは白色で、外壁の一部は木壁である。建物は掃除が行き届いていることもあって、全体的にさわやかであると同時に落ち着いていて、親しみやすい感じを与える。こうした印象は、この後の取材で黒澤が自身について語った「人との縁を大事にする」という彼の印象とどこか共通するものであった。

経営三本柱のバランスが
リスク回避と相乗効果に

黒澤とは初対面からわずか1カ月しか経っていない。この間、すでに2回会っているものの、まだ名刺をもらっていないことに気づいて、すぐに交換させてもらった。
その裏を見ると、コメの主な取引先が書いてある。「なだ万」「XEX(ゼックス)」の各店、パークハイアット東京、うなぎ割烹「大江戸」。スーパーや百貨店について聞けば、紀ノ国屋や成城石井、三越、東急百貨店など錚々(そうそう)たる名店ばかりを挙げてきた。
もちろん個人顧客も相手にしている。黒澤は、古くから付き合いのあるコメの小売店・相馬屋(福島県いわき市)の佐藤守利社長から教わり、忠実に実行してきたことがある。それは「経営において三本柱をつくれ」ということ。その三本柱とは一般消費者、小売、飲食店を指す。商売の相手としていずれかに偏重するのではなく、それぞれをバランスよく取り込むことを大事にしてきた。
「ひとつはリスクの分散ですね。もし飲食店に特化すれば、突如として取引が切られたときに、新たな飲食店を獲得するのは大変難しい。もうひとつは相乗効果。たとえば、なだ万に食べに行ったお客さんが、自宅でも食べたいとなってくれたら、うちのコメがさらに売れていく」

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