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そして1年半前に退職。東京と三島のレストランのオーナーシェフ二人に自分の夢を語り、最初の顧客になってもらった。すでに二人の専従スタッフを雇い、創業初年度の売り上げは約1000万円。今年は2000万円超えを目指している。
まだ退職金で食いつないでいる部分もある。彼はモノとしての野菜ではなく、野菜やお客さんを巻き込んでの野菜作りを通したコトを売る。最初の2軒の顧客やfacebookを通して、すでにレストランが50軒、個人顧客が66人になっている。
以前にも書いたが、僕は「就農」とか「担い手」とかいう農業界特有の言葉が嫌いだ。いまだに貧しい農民・農村というイメージのまま誇りなく政治にしがみつく農業界だからこそそんな言葉づかいを続けるのだろう。
そもそも「就工」だとか「就商」なんて言葉は聞いたことがない。ましてや「新規就農」。この時代に報いの少ない汚れ仕事をあえて選ぶ奇特な若者というイメージを作り上げ、そこにも年間150万円なんていうお手当まで出す制度があったりする。でも、僕はその制度は新規に起業しようとする者を甘やかし、情けない経営者を育てることになるのではと危惧する。どんな起業も大多数の者は失敗して廃業あるいは出直すことになる。それが当たり前のことなのだ。
かつて農業とは人々の暮らし方だった。もうそれが成り立つ時代ではない。また、それを政治的・行政的に無理やり保護したとしてもうまくはいかないのである。農業界では新規に農業をすることがいかにも大変であるかのように語り、だからそれに取り組む者に保護が必要であるという。そんなことは農業に限った話ではない。
この二人に共通するのは、コンセプト・顧客・戦略を定めた事業計画を立てる才覚があるということだ。もうこれ以上農業・農家を甘やかす政策はやめにしよう。
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昆吉則 コンキチノリ
『農業経営者』編集長
農業技術通信社 代表取締役社長
1949年神奈川県生まれ。1984年農業全般をテーマとする編集プロダクション「農業技術通信社」を創業。1993年『農業経営者』創刊。「農業は食べる人のためにある」という理念のもと、農産物のエンドユーザー=消費者のためになる農業技術・商品・経営の情報を発信している。2006年より内閣府規制改革会議農業専門委員。
江刺の稲
「江刺の稲」とは、用排水路に手刺しされ、そのまま育った稲。全く管理されていないこの稲が、手をかけて育てた畦の内側の稲より立派な成長を見せている。「江刺の稲」の存在は、我々に何を教えるのか。土と自然の不思議から農業と経営の可能性を考えたい。
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