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そこで移植栽培を検討することにした。てん菜を移植栽培しているのは、世界で我が国だけである。なぜ移植栽培をしたかといえば、第二次大戦後、トラクターを導入してヨーロッパとまったく同じ栽培を試みた。ヨーロッパの収量が10a当たり4tであったときに我が国は2tであり、なんとかこれに追いつこうとした。しかし、どうあがいても3tにしか達しなかった。この原因を探ると生育期間の短さにあることが判明した。ヨーロッパの耕起始めは2月であり、北海道に比較すると45日の差があった。ヨーロッパの水準に追いつこうとすると、雪を退けてハウスを建て、苗を作って移植するしかないと考えた。
これが当時は行政や研究機関から猛反対された。ヨーロッパの技術を導入し、ヨーロッパ並みの収量水準にしようとするときに、手間のかかる移植栽培とは何ごとだ、畑作物をなぜ園芸作物にするのかと糾弾される始末である。しかし、紙筒移植法を開発し、移植してみると4tはおろか6tの可能性があることを知る。そうこうするうちに大冷害の年があり、慣行の直播栽培が壊滅状態のときに移植栽培は健全な生育を示し、冷害にも強く安定した栽培のできることが明らかになった。こうなればどんなに反対があってもこの技術を育てようと決心する。
そのうちに行政の理解があって支援されるようになり、移植栽培は95%以上の栽培面積を占めるようになる。育苗プラントを開発し、移植機に改良を加えると直播栽培よりも有力化される始末である。我が国は実直な農耕民族でありながら工業技術に長けている。これが結合すれば世界に類のない技術も組み立てることができる。
現在では収量品質で世界一を誇っている。4tに到達すればよいと考えていたものが平均6tであり、篤農家のなかには8tを超している例もある。
多収・高品質化の基本は、まず株ぞろいを良くすることである。ハウスの中で温度を保証して発芽させれば発芽がそろい、苗立ちが良くなる。移植時にはこれも我が国独自の技術であるが、弱苗を自動的に選別除去して、健苗のみを植え付けることができる。このことによって株ぞろいが良くなる。6月の葉面積は直播栽培に比較して5倍以上である。6月は、作物は骨格を作る時期といわれているので、じつに健全に生育するものである。寒さに強いことから安定した生育、収量を保証しているのも移植栽培である。
てん菜も移植栽培ならば、馬鈴薯にも移植栽培があってよいと考える。専門家は馬鈴薯の移植栽培など世界に例がないととがめるが、てん菜の例を考えるならば、躊躇する必要などない。反対されるほど勇気もわくもので、やってみると紙筒移植栽培はあっさりと形を整えた。4月下旬に紙筒に播種し、5月上旬に30日苗を移植すると7月中旬にはでん粉量が14%以上になって出荷できる。晩生種が7月中旬に黄変期を迎えれば、採種圃でウイリスフリーの種イモを生産することは容易である。チョッパー1回、あるいは枯凋剤1回の散布で完全処理ができるのである。
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村井信仁
農学博士
1932年福島県生まれ。55年帯広畜産大学卒。山田トンボ農機(株)、北農機(株)を経て、67年道立中央農業試験場農業機械科長、71年道立十勝農業試験場農業機械科長、85年道立中央農業試験場農業機械部長。89年(社)北海道農業機械工業会専務理事、2000年退任。現在、村井農場経営。著書に『耕うん機械と土作りの科学』など。
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