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獨協大学教授の北野収氏によると、欧州のような農業の衰退の問題は、じつは米国でも起きていた。T・ライソン著『シビック・アグリカルチャー』を北野氏は「食と農を地域に取り戻す」とサブタイトルをつけて邦訳している。
社会の多様化が進む一方で、グローバリズムが進んできている。それにつれ、同じ地域で単一の作物を生産するといったモノカルチャー化が進む。ライソンはそのことに危惧を抱いている。米国では、モノカルチャー化に伴い、農業地帯が東部から西部に移っていった。日本よりも早い時代に、米国の東部では耕作放棄地が増え、荒れ果てた状態になっていたという。
東部のニューヨーク州も、マンハッタンなどの都市部を除けば農業地帯である。やはり耕作放棄地に悩まされていた時代があったのだ。それがいまは、ブドウ畑があり、ワイナリーがあり、農家レストランがあり、直売所がある活気あふれる農村として再生し、景観を楽しんだり農業体験したりできる観光地として有名になっている。
[2]あるもの探しから生まれる多様な農村の価値
これまで農村は、都会との格差を埋めることを求めてきた。しかし成長期が終わったいま、新たな開発に税金を投入すれば、後世に借金を残すことになり、ますます地域は衰退する。そうではなく、自分たちの農村にあるものを演出することによって価値や魅力を生み出していく。そこではやはり景観や風土・歴史・文化・食が原点になる。
九州工業大学准教授の徳田光弘氏は建築が専門だが、日本が抱える根本的な問題を指摘している。いま日本が直面している問題は、戦後につくられたシステムを用いても機能するはずがないこと。ないものねだりをして税金を投入して地域の再開発事業を興しても地域の経済は活性化しないのだと。
徳田氏は大学から出て現場で実践するなかで、ひとつの仮説を持っている。ないものねだりをして新たに何かをつくるのではなく、地域にあるものを探してそれを活用することが必要だというものだ。建築の世界で「あるもの」といえば、空き家や空き地である。
徳田氏が携わっている北九州市を拠点としたリノベーションスクールでは、地域の若者たちが、空き家・空き地をどう使うか、誰が使うか、建物自体ではなく、そこで展開する産業や住みたい人のニーズに合わせてリノベーションするという活動をしている。
当然、リノベーションで生まれるものは、それぞれ異なる多様なものになる。こういったあるものをリノベーションするという動きは、イタリア・オーストリア・フィンランドでも起きているという。
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