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「力強い農業づくり」などという農業政策が語られているが、これでは農業という事業や職業に就く前から若者を「補助金漬け」の体質にしてしまう。
例えば農業以外の小規模な小売業者や中小企業者に対して、ただ家業を継ぐあるいは新規にその職業を選ぶという理由だけでこんな法外な補助は存在するだろうか。
そもそも、どんな分野であれ起業するのは大きなリスクがあり、起業した人々のほとんどは数年を待たずして廃業していく。それが当たり前なのだ。それを乗り越えていけるのは、時代を見抜く感性と未熟であってもそれなりの事業者能力を持ち、さらに起業以前の準備段階から彼がその仕事に取り組むことへの支援者や顧客を集めていたからではないだろうか。そんな支援者や顧客をあらかじめ作っていくことも起業準備の一部だというべきであり、起業に成功する人は、必ず人に求められる能力や人柄を持っているものだ。
よく非農家が新規に農業を始めることには大きな障害があるという。事実である。そもそも、緩くなってきたものの農地法の規定は現在耕作者である者以外の農地の取得すら規制がかかっている。しかし、そんな規制があったとしても本誌読者の中には非農家出身でそのような制約を超えて農業経営を始め、事業的成功を収めている人が少なくない。彼らはこんな給付金を得たからいまがあるわけではない。
もし、日本農業を真に力強い産業としてその担い手の登場を期待するのであれば「青年就農給付金事業」など廃止すべきなのである。
農業問題は農業関係者問題であり、彼らの居場所づくりのために農業問題を創作すると筆者は述べてきた。年間で210億円もの税金を使って新規に農業を職業として選ぼうという若者を補助金体質にするこの事業の目的とは、この事業にかかわる公務員に対する無駄な仕事づくりなのではないか。読者の中にはこの給付金を有難いと思う青年も雇用者もおられると思うが、少なくともこの給付金が自らの経営体力を弱めていることを自覚すべきだ。
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昆吉則 コンキチノリ
『農業経営者』編集長
農業技術通信社 代表取締役社長
1949年神奈川県生まれ。1984年農業全般をテーマとする編集プロダクション「農業技術通信社」を創業。1993年『農業経営者』創刊。「農業は食べる人のためにある」という理念のもと、農産物のエンドユーザー=消費者のためになる農業技術・商品・経営の情報を発信している。2006年より内閣府規制改革会議農業専門委員。
江刺の稲
「江刺の稲」とは、用排水路に手刺しされ、そのまま育った稲。全く管理されていないこの稲が、手をかけて育てた畦の内側の稲より立派な成長を見せている。「江刺の稲」の存在は、我々に何を教えるのか。土と自然の不思議から農業と経営の可能性を考えたい。
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