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農業は農家だけで成り立っているものではない。鍛冶屋から始まったものも多い農機販売店だが、いまではメーカーから供給される部品を使う修理はできても、自ら部品を加工したり、部品供給が停止された機械を修理できるところはほとんどない。修理に限らず、農家ならではの機械に対する要求に応えられる存在は今後ますます必要とされるだろう。
聞けばいまでは各地の農家や販売店だけではなく、大手農機メーカーからの仕事の発注も受けているそうだ。
当然だろう。すでに農業経営者たちの要求はメーカーが作る普及品ではもの足りないケースも少なくないからだ。とくに、力のある農業経営者であれば中古のトラクターや海外のネットを見て中古農機を個人輸入している場合もある。しかし、そんな場合、部品がすでになかったり、部品供給が受けられないようなこともある。そんな人々が高垣さんとネットでつながったり、持ち込まれた販売店の紹介でその要望に応えているのだ。
高垣さんがこの道に入ったきっかけが面白い。彼の実家は東京の大田区。育った街にはたくさんの町工場があった。実家は町工場ではない。そんな街に育つなかでいつの間にか町工場に入り浸るようになった。そこで、職人さんが言う「この鉄は軟らかい」なんていう言葉遣いに心が震えた。高校や大学で機械工学を勉強したわけではないが、町工場に出入りし、そこに置いてあるさまざまな金属の加工品とその図面を見るなかで、また職人さんが図面を見て鉄を加工する姿が面白く、いつの間にか図面の描き方を覚えた。
そんなころ、羽廣さんに出会ったのだ。羽廣さんと一緒に仕事するなかで、農家や発注者の要望を図面に起こすことが自分の仕事だと気づいた。
すでに全国の200以上のさまざまな町工場と知り合いになった。それぞれの得意分野があり、発注者の要望を図面に起こしながら最適な職人さんを選んで仕事を依頼する。
彼の仕事はこれから広がっていくだろう。本誌でも農機具カスタマイズの例を高垣さん自身に連載で紹介してもらおうと思う。Facebookで「下請の底力!」、あるいは「高垣達郎」で検索してみられたい。そこに紹介されたカスタマイズの例を見て、皆様の要望を相談してみたらいかがだろう。
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昆吉則 コンキチノリ
『農業経営者』編集長
農業技術通信社 代表取締役社長
1949年神奈川県生まれ。1984年農業全般をテーマとする編集プロダクション「農業技術通信社」を創業。1993年『農業経営者』創刊。「農業は食べる人のためにある」という理念のもと、農産物のエンドユーザー=消費者のためになる農業技術・商品・経営の情報を発信している。2006年より内閣府規制改革会議農業専門委員。
江刺の稲
「江刺の稲」とは、用排水路に手刺しされ、そのまま育った稲。全く管理されていないこの稲が、手をかけて育てた畦の内側の稲より立派な成長を見せている。「江刺の稲」の存在は、我々に何を教えるのか。土と自然の不思議から農業と経営の可能性を考えたい。
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