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先駆者の市場ニーズの捉え方や経営資源との組み合わせの考え方をプロセスとして学ばず、大雑把に「英語でホームページを作ろう」「手摘み、手刈りによる農作業体験、収穫体験のプログラムを作ろう」といった発想で取り組んでも、うまくいかないことが多い。外部環境を活かしきれるか、課題を乗り越えられるかは、良いビジネスモデルを磨き上げることと、それを行なう事業者の行動にかかっている。
国内のリンゴ産業についても同じだ。青森県のリンゴ輸出量は、2012年産の1万4,898tから13年産1万9,885t、14年産3万114t、15年産は今年5月までの販売実績で3万5,695tと3年間で倍増。輸出量が出荷量に占める割合は8.4%に上昇し、青森県から九州地方への出荷量を上回る需要が創出されたことになる。しかし足元を見れば深刻な人手不足で、もはや研修生に労働を依存しなければ産業が成立しなくなってきている。農業経営を継続するためには、管理や収穫・調製作業の効率化が必要だが、作業性の軽減だけを考えていても需要者のニーズに合わなければ規格として実現しない。具体的には、これまでの小売流通に合わせた小規模コンテナ規格ではなく、大コンテナによるオペレーションを行ない、流通側にもその対応を拡げていくことが望まれる。
これまで農業のイノベーションは、産直や安心安全のPRなど情報の隔たりを無くしたり各行程の効率性を上げたりと部分最適を図る一方、生産・加工・流通・販売の役割は各行程における業界の事情に沿った常識やふるまいに沿ったものであった。しかし、今後はその役割のバランスや全体を通じた仕組みの見直しを大きく変える時期が来るのではないか。その必要性に気づいているのは、生産者、食品企業、商社、飲食店経営者など、食に責任を持って日頃から事業の競争や成長に身を投じている民間事業者であることが多い。「良い」ビジネスモデルは時代とともに移り変わるが、事業者は模索し提起していることを新たな経営・流通の実験として実施し、それを実証する。彼らが次世代産業の糸口を見出す試みとして取り組めるように、農業関係者は耳を傾け、必要な支援を進めるべきだ。
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松田恭子 マツダキョウコ
(株)結アソシエイト
代表取締役
日本能率協会総合研究所で公共系地域計画コンサルタントとして10年間勤務後、東京農業大学国際食糧情報学科助手を経て農業コンサルタントとして独立。実需者と生産者の連携の仕組みづくりや産地ブランド戦略を支援している。日本政策金融公庫農業経営上級アドバイザー試験合格者。(株)結アソシエイト代表取締役。
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