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たとえば、pHは土の酸性・中性・アルカリ性を調べる項目であるが、体温測定と考えればよい。体調不良で病院に行けば、まず体温を測定する。それと同じように、土の健康を調べる際に真っ先にpHを測定することが多いからである。電気伝導率は土の塩類濃度を測定する項目で、まさに土の血圧測定に匹敵する。陽イオン交換容量は土の胃袋だ。以下、土の化学性について主な項目ごとに要点を解説する。
●土の体温(pH)
作物の生育に最も大きく影響する土壌化学性項目の筆頭がpHである。土に水を加えて懸濁液にした状態でpHメーターや試験紙などで測定する。まさに人の体温と同じように、農家でも簡単に測ることができる。
pHとは、液の酸性・中性・アルカリ性を示す数値で、一般的にpHは7が中性、7以下が酸性、7以上がアルカリ性となっているが、土のpHでは6.0~6.5を中性土壌と見なす。その理由は、多くの作物がそのpHの範囲で最もよく生育するためである。
その事例を紹介しよう。栃木県鹿沼市の山林から採取した黒ボク土(黒土)のpHは5.5と低かった。そこで、代表的な土壌酸性改良資材である苦土カル(苦土石灰)を施用して、pHを6.0、6.5、7.2に高めた試験区をつくってコマツナを栽培したところ、写真1(上)のように6.0~6.5ではよく生育したが、7.2では深刻な生育阻害を来した。
これは、マンガンやホウ素などの微量要素は土のpHが高まると水に溶けにくい形態になるために生じる微量要素欠乏である。その欠乏が生じないように、土のpHを6.5程度以上に高めることは御法度とされてきた。ただし、最近では転炉スラグを施用して土のpHを7.5程度まで高め、アブラナ科野菜の根こぶ病やホウレンソウ萎凋病などの土壌病害対策とする新しい技術が普及しつつある。なお、転炉スラグについては、応用編で詳しく解説する。
●土の血圧(電気伝導率)
人の血圧に、ぴったりと当てはまる土壌診断分析項目がECとも呼ばれる電気伝導率だ。土に水を加えた懸濁液にセンサーを浸し、電気の流れやすさを測定する。土の中に塩類が多く含まれるほど、それらが水に溶けてイオンになるので電気を流しやすくなり、ECが高まる。すなわち、ECとは土の中の塩類濃度を測定する分析項目である。
図1のようにECが高まると土の浸透圧が上昇するので、根からの水分吸収が阻害される。まさに、「青菜に塩」である。ただし、土の塩類とは海浜部の農地を除けば「漬け物の塩(塩化ナトリウム)」ではなく、主に硝酸カルシウムという物質である。
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後藤逸男 ゴトウイツオ
東京農業大学 名誉教授
全国土の会 会長
1950年生まれ。東京農業大学大学院修士課程を修了後、同大学の助手を経て95年より教授に就任し、2015年3月まで教鞭を執る。土壌学および肥料学を専門分野とし、農業生産現場に密着した実践的土壌学を目指す。89年に農家のための土と肥料の研究会「全国土の会」を立ち上げ、野菜・花き生産地の土壌診断と施肥改善対策の普及に尽力し続けている。現在は東京農業大学名誉教授、 全国土の会会長。
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