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突き詰めて考えるまでもなく、生産現場が不安定すぎるんです。いまの社会の農産物流通システムがおかしいんでしょう。農家は天候に左右されますし、豊凶もあります。それに価格でも変動があるとなるとダブルでの変動です。そのなかでの経営なんて普通はやれないはずなんです。いままでは家族経営でやることによって我慢しながらやってきていますから、いいときに蓄積してきた農家が辛うじて残って安定させているだけの話ですよ。でも、この先もできるのかといったら徐々にできなくなっていくでしょうね。
そこに全体が気づき始めたのか、農家の囲い込みというか、系列化が始まりました。そのなかで農家は技術的にきちっと原料の品質を確保して、メーカーであれば加工技術を高めてお客様にお届けする。そこに携わる人がWin-Winになって安定していくかたちが望ましいでしょう。きっとそういうふうにならざるを得ないんじゃないかと思うんです。メーカーや小売は自社のレベルに合う農家と組んでいく。徐々にそうなるんじゃないですかね。
我々は主要取引先として生協と組めたのでラッキーでした。販売先がはっきりしていますからね。お互いのやろうとしていたことも狙いどおりになりました。こんな取り組みが周囲を見渡しても農業界の一部で出てきています。
最終的にはオランダとかデンマークみたいに種子開発から生産技術、流通、加工、販売が全部一蓮托生につながったシステムにならないと安定しないとも思います。第一次産業を食い物にしながら、自分だけ流通や加工をするようではそちらも安定しません。相場で農家から集めて売れるところがあったらどんどん売ろうという方針から変えて、お互いに納得した適正価格での取引ができるようにと考えて我々は事業を行なってきました」
こんな五十川を周囲が放っておくわけがない。補助金にはまったくといっていいほど縁がなかったが、銀行が融資を求めてやってきたようだ。
「銀行は『6次産業化をやらないんですか』と言ってくるわけです。そのための設備投資なら応援しますよというんですけど、それは分野が違うでしょと決まって答えます。大手の会社でさえうまくいきそうもないコスト計算と、消費者のニーズはころころ変わるというのに、農家が工場を作って何十年もその商品が売れるというのはあり得ませんし、対応できません。うちは生食と原料販売までに特化してやっていきますよ」
派手さはないかもしれないが、顧客の求めに堅実に応える。新社長の下でもこの方針はぶれずに受け継がれていくだろう。 (文中敬称略)
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五十川勝美 イソカワカツミ
(有)大牧農場
代表取締役会長
1947年、北海道音更村(現・音更町)生まれ。中学卒業後、通信高校に通いながら家業の農業を手伝い、そのまま就農する。自身の農場の(株)イソカワファームと、3戸の農場からなる集出荷組織の(有)大牧農場で代表取締役社長を務めた。
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