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こうした利益増が続くような経営の安定期は、最大の投資チャンスである。もし前向きな生産財の買い物が失敗しても、しのげる可能性があるからだ。投資がうまくいくと、水槽の貯水は効率よく増え、使える水量も増える。言い換えれば、大きな資本力がさらなる経営規模の拡大を後押ししてくれるというわけだ。
次にB農場だが、入水量は収益の200万円でA農場の2倍ある。大きな資本力を持っているが、その大きな水槽の中身を見ると、泡の割合が高く貯水量は少ない。自己資本率は30%と低い。利益を確保できているのが救いで、水槽の水位がこれより下がらないで済んでいるようだ。
このような経営では、投資の是非は条件つきとなる。自己資本が少ない場合は、投資に当てる資金を負債に頼らなければならないが、負債が増えると、水槽は泡だらけになってしまう。泡では費用を支払えないので、フローは滞り、ひどいときには費用の工面もできなくなる。そうなる前に、収益を2倍にして水槽に入ってくる水量を増やし、利益を確保することを優先したい。財務状況を改善し、水の流れが滞らないようにするのが投資を進めるための条件となるだろう。
3つ目はC農場である。まず根本的に資本力がないため、水槽が小さい。そもそも水不足の状態である。このような場合は、水槽から排水されたら、入水が速やかに行なわれないと、水が枯渇し、経営は倒産してしまう。不測の事態に備えるためにも、利益を蓄積し、水槽にある程度の貯水をするべきである。
最優先事項は、資本力の増強である。利益率は50%と利益を獲得する力は備えているのだから、資本を蓄積したのち、その同額の資金を負債で調達して、大きな投資を行なえば、経営の規模拡大は可能である。
このように3つの農場では、水槽の大きさや貯水量、水と泡の比率、入排水の量などに違いがある。一方で共通しているのは、最終的な経営結果を表す1年間に発生した利益が20万円と同額であるということだ。
資産運用で考えれば、C農場が優れているように思う。限られた資金で取扱量も少ないなかで、20万円の利益を獲得しているのがその理由である。
しかし、投資で考えると判断は異なる。投資の是非を検討する際に大切なのは、水槽のなかの水量と泡との比率である。水槽の水量が少ない状況、すなわちストックが乏しい経営では、投資は博打となりかねない。運も味方につけなければ、あっという間に貯水がなくなるリスクが大きいからだ。
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齊藤義崇 サイトウヨシタカ
1973年北海道生まれ。栗山町在住。昨年、普及指導員を退職し、実家の農業を2014年から営む。経営は和牛繁殖、施設園芸が主体。普及指導員時代は、主に水稲と農業経営を担当し、農業経営の支援に尽力した。主に農業法人の設立、経営試算ソフト「Hokkaido_Naviシステム」の開発、乾田直播の推進、水田輪作体系の確立などに携わる。
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