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――市場経済との違いを教えていただきたいのですが、非市場経済とはどんな考え方なのでしょうか。
松尾 考え方は三つあります。カール・ポランニーの経済の仮説に出てくる言葉なのですが、一つめは「家政」。これは自給自足という意味です。二つめは「互酬」で、古い言葉でいうと物々交換です。いまは同じ価値に相当する手間を交換すること、つまり契約栽培や耕畜連携がこれに当たります。
小川 スマート・テロワールでは耕畜連携についても触れていらっしゃいますね。畑作と畜産はいま分業化されていますが、耕畜連携をするにはどうしたらいいですか。
松尾 畑作では規格外の作物が余るので、余ったものを家畜の餌にして、その糞尿を畑作の堆肥にすればいいでしょう。要するに互酬の物々交換です。価格はつきませんが等価交換です。藻谷浩介さんは『里山資本主義』(角川書店)で「手間の交換」という言い方をしています。大変なときに手伝いに行ったり、お互いに貸し借りするという農村の文化です。
小川 その習慣は昔からありますからね。
松尾 そうです。昔からあるものを大事にしようということです。耕畜連携の場合は、地域のなかに一つ循環の核をつくれば、そこから年輪のように広がっていくと思います。運搬もお互いに空いた時間に無料でやればいいでしょう。北海道は規模が大きいので分業したほうがいいのですが、それ以外の地域は分業しないで自分で耕畜の両方をやってもいいと思います。分業化が産業革命によって進んだのは、大量生産のために効率がいいからですよね。それは市場経済のなかで有利に働きました。需要が増えない時代になったら供給を増やす必要はないですから、非市場経済のほうがいいわけです。
小川 松尾さんはスマート・テロワールの自給圏で、すべてを自給自足しろとはおっしゃってないですよね。
松尾 はい。市場経済をすべてやめろという意味ではありません。いまある市場経済のなかの一部地域内に資源があるものを、家政と互酬を取り込んだ非市場経済の原理(為替レートや商品相場の変動のない)で自給することを推奨しています。
――非市場経済の考え方に「家政」と「互酬」のほかにもありますか?
松尾 三つめは「再分配」です。これは、税金を集めて分配をやり直すことです。
小川 ここまでで非市場経済の基本的な概念は理解できました。
農業の垂直統合ビジネスは
個人戦で同士討ち状態
小川 たとえば私が知っている新規就農した農家に、修行先の農園の紹介で野菜の品質を認められて小売店などに直接納品している人がいます。営業する努力をしなくても、安定した高品質のものをつくれば買ってもらえるという状況にいるわけです。これも非市場経済の取り組みだと思いますが、いかがでしょうか。
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