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これからの農業・農村の道しるべ

[前編]非市場経済をどう成立させるか


松尾 生産者が小売に直売するというのは、コメや野菜、果物ではよくありますね。でも、これは典型的な市場経済です。買い手の小売店が競合店に優位を奪われたらどうなりますか。つまり直接取引は市場経済の競争力強化の手段に過ぎません。
小川 その垂直統合の輪が全国に広がり始めているようですが。
松尾 サプライチェーンがつながるのは商売ですから当然のことです。中間流通をカットした垂直統合は基本的に競争力強化(コストダウン)の戦略です。それが個人戦なら、自分が勝てば誰かが負けていることになります。市場経済の下で個人戦をやると、同じものを後からつくった人が成功して、それまでやっていた人がやめることになります。つまり国内の農業者が互いに同士討ちをしているのです。このサイクルでは意味がありません。1社ごとに補助金が出る六次産業はその典型でしょう。
日本の農業にやってほしいのは、国内の同士討ちではなく、外国で生産して輸入されている農作物のシェアを取るということです。オリンピックと同じで、チームが強くなるためには、個人戦から団体戦に変えないといけません。
小川 それでコメの代わりに輸入量が多いトウモロコシや麦、大豆をつくろうとおっしゃっているわけですね。
松尾 そうです。とくに加工が必要な麦や大豆などは、生産者が束になって生産して、品質を向上させることが価格に影響しますから。斉一化(せいいつか)が必要です。
――地域産業としての個人戦、団体戦の話をもう少し詳しく聞かせてください。多少強い農業経営者たちも基本的につぶし合いをしているだけだと。
松尾 団体戦というのは自分が失敗すると他人に迷惑をかけるという関係です。つまり、同じ作物をつくっている農家間で足並みをそろえることが重要です。それを学者や政治家の努力不足のせいにして見捨てていくのはおかしいと思うのです。
小川 自給圏という非市場経済をつくるには、個人戦ではなく団体戦が必要ということですね。団体戦とは具体的にどういう取り組みですか。
松尾 米国の農作物の輸出戦略はすべて団体戦です。ジャガイモの例を挙げると、「ポテト協会」というジャガイモ生産者の団体があって、日本の米国大使館に出店を持っています。日本の小売業や外食産業にアプローチする手段を持っていて、組織的に米国産のジャガイモを加工したフレンチフライを普及するために仕掛けているのです。
小川 地域の人々が家政と互酬の考え方を持って、輸入作物に対して団体戦という戦略をとるわけですね。

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