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松尾 この取り組みは簡単にはできません。ゴールと戦略をもってやらないとなかなか出てこないと思います。大手のスーパーマーケットに買い物に行く消費者をどう地域の商店街に引き戻すかという運動が必要です。言い換えれば、地域の食と農を守るための食習慣や食文化を住民に広める運動です。マーケティング戦略で考えると、地域住民が地域のものを選んでくれるようになるには、地元愛をどう活かすかということになります。
小川 なるほど。私は秋田の出身で、地元愛もあると思います。しかし、地元産のものを選んで食べるかどうかというのは現実問題としては別という気もするのですが……。
松尾 たとえば、北海道の別海町や標津町では、酪農家や畜産家が中心となって食文化を見直そうという運動になりつつあります。地域の食文化が変わっていかなければ、地域を救済することはできません。スマート・テロワールのビジネスモデルを理解するためには、トヨタのカンバン方式と米国のフォーディズムとを比較することが必要です。商圏内で各段のプレーヤーと消費者がつくるジャストインタイムシステムと理解してください。
――私は生産者と食品加工業者がお客様と理念を共有すると言ってきましたが、地域住民とも理念を共有すること、あるいはその地域の風土のなかで何を生み出しうるかを共有できれば成立すると思います。
小川 そのためには消費者に地元愛が必要ですか。
松尾 地元愛を生むマーケティング戦略を構築するのです。50年前からの「流通革新」をリードしたのはダイエーなどの価格戦略でした。その既存のナショナルブランドに3割安い価格で挑みます。品質の競争は容易ではありませんが、5年もすればそこそこのものになります。その間に地域内の消費者の支援を得る必要があり、ここで「地元愛」が形成されます。消費者の支援に価格で報いるのです。
小川 やはりそこですか。3割安くて鮮度がよくて、しかもその地域の材料を使って、地元のメーカーがつくった商品というなら、消費者が選ぶ理由がわかります。
松尾 原料はいろいろな形で出ている補助金の1反当たり10万円程度を目安にした買取価格で、農家に長期的な契約栽培を勧めます。たとえば大豆の場合、味噌や醤油の加工メーカーが生産者から相場に関係なく1kg当たり300円で買い取ります。カルビーの場合、生産者は地域の仲間ですから、農家に品質を上げる努力を要請しました。品質が上がることでインセンティブが上がり、それにより農家の収入を確保しました。10万円でやった人がニコニコしていたら広がっていくわけです。
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