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小川 ジャガイモ以外でも反当たり10万円が目安になりますか?
松尾 野菜や果物と穀物では収穫の手間がまったく違います。1個ずつ手摘みする果物や野菜と、1畝ずつ機械で収穫する手間とを想像してみてください。野菜の場合は年間3回つくれれば、30万円くらいになるでしょう。
小川 非市場経済ならではのポイントはどこでしょうか。
松尾 ここで強調したいことは、販売価格を安くするために原料価格を安くするという考え方です。原料を安くして販売価格の競争をしようというのは市場経済の考え方です。その市場経済の常識にとらわれてはいけません。高く仕入れるのですから、農家には規格に合った生産を要請します。それで成果を挙げればその価格より高く仕入れる相手がいないので、市場でリーダーシップを持つことができます。販売価格を安くするのもまた同じことです。
小川 それにしても3割も安く販売するには、何かイノベーションがないとできないと思いますが。
松尾 3割というのはカルビーではその価格にできたという例ですが、当然たくさんの改善活動が積み上がってできたことです。基本的には販売量がコストを決めますから、販売量を確保することです。量がまとまるとナショナルブランドのコモディティな商品で戦えるようになります。もともとナショナルブランドの商品ができる前は、地方での販売価格は東京の半値でした。ところが流通革命によって大手のスーパーマーケットが全国にできると、販売価格はどこも東京と同じになってしまいました。そのことを知らないだけですよ。
小川 それだけでしょうか。
松尾 新商品事業のコストの問題は、既存の事業で人件費や物流費などで負担すれば、かからないことになります。採算が合うようになったら会社化すればいいわけです。もう一つは麦、大豆、ソバ、ジャガイモなどの場合、半分は加工食品の原料に、半分は餌にします。先ほど話した規格外の作物と堆肥を交換する互酬の考え方を取り入れるのです。
――ここまでは非市場経済をどう成立させるのかというお話をうかがいました。後半は、人材と情報を地域にどう集結させるのかというテーマに話題が移ります。(つづく)
「スマート・テロワールとは」
松尾雅彦氏が提唱する広域エリアの自給圏。地方都会と周辺の農村を含む広域エリアのなかの農業、加工業、(物流)、小売業、消費者が、地域内で生産された農産物や加工食品、木材やエネルギーなどの資源を地域内で消費し、余剰分を大都会圏に販売するという考え方。既存の地産地消や特産品産業と異なるのは、競争相手を国内の他地域ではなく、輸入食材や輸入飼料としている点である。
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