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成田重行流地域開発の戦略学

世界の果てから「世界の尾鷲」へ 三重県尾鷲市(下)


「良栄丸」のマグロが一味違うのは「生」であること。店のホームページにその説明が書いてある。「生きて水揚げされたマグロは船上で1尾1尾ていねいにエラとハラ(内蔵)を処理します」「船にも工夫があります。冷却槽には海水と真水を調合した水が入っており、この配合により、マグロを凍らすことなく生のまま保存することを可能としています」。
私も全国を回ったが、地元で獲れた魚を手ごろな価格で提供する店というのは意外に少ない。しかも、漁船まで持っている店ともなるとまずないのではないか。
営業時間は午前11時から午後2時で、これまた「夢古道おわせ」と同じ。そう、ここもまた地域の主婦たちが主役となって調理したり接客したりしているわけだ。彼女たちが地場の魚介類で自慢の腕を振るっている。まさに「ここだけ・これだけ・いまだけ」である。

唯一性と時代性に基づき
特産品を開発

「おとと」で食事をした後、顧問の髙芝芳裕さんの案内で店内で扱っている土産物を見て回った。置いている加工品は地域の住民や企業が開発したものが少なくないそうだ。これらはここ10年ほどの間で急速に誕生したものばかりである。そのことについて話していこう。
熊野古道が世界遺産に登録されたり、尾鷲湾での海洋深層水の取水事業が本格化したりした時期、それに合わせてもうひとつの仕掛けが始まろうとしていた。市役所主催で成田さんを塾長とした地域の特産品を開発する塾だ。
前号で紹介したように、熊野古道の世界遺産登録に呼応するように、住民たちが熊野街道にウォーキングコースをつくっていった。観光客が急増するのは必至である。その経済効果を高めるため、特産品を開発する動きを活発にしようとなったわけだ。
開発の方向性は一言でいえば、「尾鷲には海山の資源や伝統技術がある。これに時代のニーズを組み合わせることで、ほかにはない尾鷲ならではの特産品をつくろう」。成田さんが地域開発の三本柱にしている「唯一性」と「時代性」である。
集まった塾生はおよそ20人。企業の社長もいれば個人事業主もいる。こうした塾を市役所が主催する場合、年会費は無料であることが多いだろう。対して尾鷲市は1万5000円に設定した。水産商工食のまち課の野地敬史課長は「受講料を設ければ、授業を受ける側は元を取ろうという気になる。授業をする側も緊張感が出てくる。それがよかった」と語る。
では、具体的にどういうものができたのか。たとえば地元紙の記者だった平山浩介さんは脱サラ後、妻と一緒にレストラン「葉っぱがシェフ」を尾鷲市内で開いた。とはいえ料理の腕も経験もまるでなかった。それでも飛び込んでしまうのが平山さんらしいところなのかもしれない。

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