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成田重行流地域開発の戦略学

世界の果てから「世界の尾鷲」へ 三重県尾鷲市(下)


「葉っぱがシェフ」ではまさしく葉っぱを活かした料理を提供している。葉っぱというのはレストランの裏庭というか裏山で栽培している野草。それらを取ってきて、香草にしたりツマにしたりしている。塩にも地元志向が現れている。尾鷲湾で採取した海洋深層水を特殊な土鍋に入れて、しばらく置けば結晶が現れるという。取れた塩はそのまま使うだけではない。サクラやオオバコ、テンダイウヤクなどから抽出した成分を定着させている。このため彩りも香りもさまざまな塩が用意でき、それで紀伊半島の海山の幸のおいしさを引き出している。
ほかの開発塾の卒業生たちも、地場のカツオやサンマなどを使った加工品を続々とつくっている。

地域に拠点を置く
企業の販路開拓

では、こういった商品をどうやって売っているのか。企業であればルートはあるが、個人であればなかなかそうもいかない。そこでいくつかの販売ルートが用意されている。たとえば協同組合尾鷲観光物産協会は地域の特産品を年4回送り届ける「尾鷲まるごとヤーヤー便」の詰め合わせの素材にしている。尾鷲商工会議所は1月を除く毎月第1土曜日に尾鷲魚市場で開く「イタダキ市」で扱っている。これは来場者参加型のイベントや演奏会なども開くなど毎回盛況だ。それから、すでに述べたように「おとと」もまたそうした特産品を扱う。「おとと」は新たに誕生した特産品を真っ先に取り扱うことにしており、そういう意味で開発者にとっては実験的な場所にもなっている。髙芝さんいわく「地域社会に拠点を置く企業だからこその」というわけであ
る。

いつもの海、
いつもの山、
いつもの魚

ところでその「おとと」を訪れた際、店の外壁のあちこちに張られたポスターが気になった。「セカイノオワセ」というタイトルとともにギターケースを背負った男子生徒が写っている。髙芝さんによると、同社がリクルートのために制作した短編映画のポスターだという。
ちょうど店内のモニターでその映像が流れていた。主人公は地元である尾鷲に複雑な愛情を抱く高校三年生の男子。オープニングは尾鷲湾の波止場で釣り糸を垂れるその男子高生が映し出された。彼は辺りの景色を眺めてからため息をつき、続いて「いつもの海」「いつもの山」「いつもの魚」とつぶやく。その言葉には高校卒業後に尾鷲に残るかどうかの葛藤が感じられる。
続くシーンでは、サークルの部屋らしき場所が映し出され、主人公を取り囲むバンド仲間の3人が卒業後の進路を語り始めた。それぞれ大阪や東京、名古屋に進学や就職で出ていくんだと、イキイキと話し出す。そして彼ら彼女らは悪気もなく、あっさりとこう言い切る。「尾鷲って、なんていうか、世界の果てみたいじゃん」「そうだよ、終わっているって感じ」。胸に刺さるような言葉に動揺した主人公は、それでもなんとかしてそれらを否定しようと口ごもっているうちに、逆に「お前、どうするの?」って問いただされてしまう。主人公はうまく答えられず、話をそらすしかなかった。

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