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2. やせた土と良質な地下水
名水百選でなくとも、日本の地下水は良質といわれるが、その一因は適度な濃度のミネラルが含まれているためだ。ミネラルといえば、何か体によい成分のように思いがちだが、日本語では「無機質」あるいは「灰分(かいぶん)」といい、有機物を燃やした後に残る灰を意味する。
地下水中のミネラルの主成分はカルシウム・マグネシウム・カリウムイオンなどだ。それらの一部は、土の中で陽イオン交換反応によって水素イオンに追い出された水溶性塩基が、地下水に流れ込んだミネラル類である。すなわち、日本の土は一般にミネラル類が流され酸性化してやせているが、そのミネラルが流れ込んだ地下水は良質で、土と地下水の善し悪しは裏腹の関係にある。
3.窒素の過剰施用が
土の酸性化を促進する
pHの数値自体は0~14までだが、日本の土のpHは特殊な土を除いてほぼ5~8の範囲にある。pHが最も高い土は、山口県の秋吉台や沖縄県の一部などの石灰岩地帯に分布する土などで、7~8のアルカリ性を示すが、面積的にはごくわずかに過ぎない。逆に最も低い土は5~5.5で、それより酸性が強くなることはない。なぜならば、雨水のpHが5.5程度だからだ。
しかし、それは人の手が加わっていない未耕地でのことで、農耕地土壌では5.5よりpHが低下する。そのよい事例が茶園で、pH4以下の土も珍しくない。このように、農耕地の土は自然の土より酸性が強まることがある。その理由は肥料として施す窒素が土の酸性化を促進するためだ。
窒素肥料には、硫安や尿素などの化学肥料と油かすのような有機質肥料がある。それらが畑に施されると、土壌微生物の作用でアンモニウムイオン(アンモニア態窒素)を経て硝酸イオン(硝酸態窒素)に変化し、作物に吸収される。
ただし、それらのすべてが吸収されるわけではなく、とくに野菜畑では収穫後にも硝酸イオンが残留する。陰イオンである硝酸イオンは、土のコロイドに吸着されにくいため、露地畑では雨水の中に溶け込んで下層に流れてしまう。土の中では陰イオンあるいは陽イオンが単独で存在することはなく、必ず両者のバランスがとれている。人間の世界でも男と女がほぼ同数いるのと同じである。
硝酸イオンが下層に移動する際には、土のコロイドに吸着されている交換性塩基を誘い出し、お手々をつないで流れ去る。すなわち、駆け落ちのようなものだ。交換性塩基組成は通常、石灰(カルシウム)、苦土(マグネシウム)、カリ(カリウム)の順で多いので、硝酸イオンのお相手は主にカルシウムイオンとなる。窒素を施用してから硝酸イオンとカルシウムイオンが溶脱するまでのメカニズムが図2である。
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後藤逸男 ゴトウイツオ
東京農業大学 名誉教授
全国土の会 会長
1950年生まれ。東京農業大学大学院修士課程を修了後、同大学の助手を経て95年より教授に就任し、2015年3月まで教鞭を執る。土壌学および肥料学を専門分野とし、農業生産現場に密着した実践的土壌学を目指す。89年に農家のための土と肥料の研究会「全国土の会」を立ち上げ、野菜・花き生産地の土壌診断と施肥改善対策の普及に尽力し続けている。現在は東京農業大学名誉教授、 全国土の会会長。
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