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また、定期預金と普通預金の割合は一定である。一般的には定期預金(可給態リン酸)の10%程度が普通預金(水溶性リン酸)であるが、その比率は土の種類により異なる。黒ボク土のようにリン酸固定力の大きな土では数~10%だが、リン酸が効きやすい低地土では10~20%にも達する。たとえば、可給態リン酸が50mg/100gの土では、水溶性リン酸が5mg/100g程度存在するといった具合だ。
作物の根はまず普通預金である水溶性リン酸を吸収するが、それが減ると可給態リン酸から補填されるので、水溶性リン酸の量は減らない。その結果、一時的に可給態リン酸は減るが、土の中には可給態リン酸の何十倍にもおよぶ大量の固定リン酸が控えていて、その一部から補填される。つまり、固定リン酸は自宅の縁の下に隠した「隠し金」のようなものである。このように、3つの形態のリン酸の間には一定の「化学平衡」が成立している。
従来、リン酸肥沃度の判定にはリン酸吸収係数と可給態リン酸が用いられてきたが、園芸土壌のようにリン酸肥沃度が高まった土ではリン酸吸収係数の測定は不要で、その代わりに水溶性リン酸を必須土壌診断分析項目に加えるべきである。
4.畑と水田では異なるリン酸肥沃度
固定リン酸のうち、鉄型リン酸は畑と水田で挙動が異なる。鉄は周りの環境により、Fe3+(三価鉄イオン)かFe2+(二価鉄イオン)のどちらかで存在する。酸素が十分にある畑の作土では、図2のように鉄がFe3+として存在するのに対して、湛水条件下の水田ではFe2+に変化する。
Fe2+イオンと結合する鉄型リン酸はFe3+イオンと結合したものより溶解度が高いので、水田では畑よりリン酸が効きやすい。具体的には、畑では可給態リン酸が100mg/100g程度以上ではリン酸肥料の施用効果が著しく低下するが、水田では15mg/100g以上ではリン酸施用量を標準量より半減できることが知られている。
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後藤逸男 ゴトウイツオ
東京農業大学 名誉教授
全国土の会 会長
1950年生まれ。東京農業大学大学院修士課程を修了後、同大学の助手を経て95年より教授に就任し、2015年3月まで教鞭を執る。土壌学および肥料学を専門分野とし、農業生産現場に密着した実践的土壌学を目指す。89年に農家のための土と肥料の研究会「全国土の会」を立ち上げ、野菜・花き生産地の土壌診断と施肥改善対策の普及に尽力し続けている。現在は東京農業大学名誉教授、 全国土の会会長。
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