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つまり生産資材価格問題は、全農株式会社化という「本丸」を落とすための「虎口攻め」のようなものだ。虎口とは城の出入り口のこと。全農が進次郎の要請に応じないのは、虎口を破られると、本丸を一気に落とされると心配しているのだ(進次郎が使った「本丸」は、これとは違う意味で使っている)。
進次郎のオウンゴール
全農が扱う生産資材価格引き下げ問題に進次郎が着手したのは、今年1月のこと。自ら委員長を務める自民党の農林水産業骨太方針策定プロジェクトチーム(骨太PT)で正式議題に取り上げた。早くも3月の骨太PTでは、独自に調査した資料を振りかざし、「農薬の価格差、農協内で最大2倍 小泉氏『調査が必要』」(同30日付け朝日新聞)と暴露してきた。
この暴露作戦は失敗だった。割高な資材を農協に供給する全農をやり玉に挙げたつもりが、流れ弾が味方にすべき農協に当たってしまったのだ。進次郎が暴露したのは、東北6県と石川を除く北陸3県の21農協の具体的な名前。これら農協の幹部は、高い資材を売りつけていると組合員から批判を受けたに違いない。その対応に追われて、「余計なことをしてくれたな」という不満の声が進次郎に向けられても不思議ではない。
全農と農協の関係は、前者がメーカーと商社の機能を果たし、後者は農家への販売店という例えで説明できる。生産資材価格問題では、農協は全農から割高な資材を押しつけられた被害者という立場になるが、進次郎の農協名暴露で農家からは加害者扱いにされてしまったのだ。
生産資材価格問題で進次郎がとるべき作戦は農協を味方につけるため全農から分断しておくことだった。農協名暴露は、進次郎痛恨のオウンゴール。味方につけておくべき農協を敵方につかせてしまったからだ。
これについて面白いエピソードがある。農協系メディアの日本農業新聞は、その暴露資料については一行も報道できなかった。その事情は察するにあまりある。
それにしても進次郎はお粗末に過ぎた。痛恨の一事だった。本丸「株式会社化」を落とす前に陣地の取り合いに負けたことになるからだ。
進次郎は焦り始める。思いどおりに事が運ばなくなったからだ。それを示す決定的シーンが、9月29日の骨太PTであった。生産資材価格問題は11月中に結論を出す予定。この日の議論は、それに備えて全農の最終意思を確認する場だった。全農が送り込んだのは、会長、理事長に次ぐナンバー3の代表理事専務・神出元一。事務局が仕組んだ「全農糾弾集会」だった。29日付け日刊スポーツが、「全農を利用する農家の怒号が会場に響き渡った」と詳細に伝えている。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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