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土と施肥の基礎知識

土の生物性


3.地力が維持できる水田と消耗しやすい畑

土1gの中には、少なくとも1億以上の微生物が生息し、それらは細菌・放線菌・糸状菌・藻類に大別される。そのうちの放線菌は現在では細菌の一種に分類されている。糸状菌とはかびときのこで、藻類は主に水田に生息する藻の仲間である。土の中で最も数が多い微生物は細菌だが、重さでは糸状菌が全体の70%程度を占める。放線菌と糸状菌は酸素を好む好気性微生物で、有機物を餌とする。しかし、細菌には好気性と嫌気性、また有機物を餌とするものとしないものがいて、バラエティに富んでいる。このような性質の異なる微生物が同居(棲み分け)できる環境が土の団粒である(図1)。
土壌動物が細かくほぐした有機物を糸状菌が分解し、さらに細かくなった有機物を細菌が低分子に分解する。酸素に富む畑では、糸状菌が活発に有機物を分解するが、湛水した水田では作土に酸素が少なく糸状菌が生息しにくいので、有機物分解が進まない。このことが、畑と水田では有機物の施用法が異なる理由になる。
畑では糸状菌が活発に働くので、有機質肥料や緑肥などの新鮮有機物を施用しても、しばらく分解期間をおいて作付ければ、生育に支障はない。一方、水田では糸状菌が十分に働けないので、有機物が分解しづらい。そのために、あらかじめ分解させた堆肥を施用するわけだ。農家にはびこっている「堆肥迷信」ができた背景には、このような畑と水田での土壌微生物の違いがある。
我が国では、弥生時代から水田での稲作が始まり、今日までそれが持続している。その理由は、糸状菌が繁殖しにくい水田では有機物分解が進みにくく、地力を維持しやすいからである。しかしながら、畑では糸状菌の働きが活発なため有機物分解が促進され、それが腐植の減少と地力の消耗につながっている。

4.農作業と土壌微生物のかかわり

普段は気づかないが、さまざまな農作業に土壌微生物が大きく関与している。畑の酸性を改良するために石灰資材を施用してpHを高めると、土の中に無機態窒素が生成される。糸状菌の多くは酸性土壌を好んで生息するのに対して、細菌は中性土壌を好む。そのため、pHが高まると糸状菌の生息環境は悪化し、一部が死滅する。
その死菌体を細菌がえさとすることで、死菌体中のタンパク質が分解してアンモニア態窒素から硝酸態窒素に変化し、作物に吸収されて生育が増進する。この現象をアルカリ効果という。作物生育の面から見るとプラスの効果であるが、実はそれが地力の消耗につながる。すなわち、土壌の酸性改良を行なう場合には、石灰資材だけではなく、有機物の補給も不可欠ということだ。

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