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土壌診断分析で重要なのは土壌試料の採り方である。どんなに精密な分析をしても、サンプリング方法が悪ければ誤った情報を得ることになる。穴を掘らずに移植ごてなどで土を採ると図1の左のようになりがちで、これは悪い事例である。正しくは右のように穴の断面に沿って垂直に土を採る。農地の土はたいへん不均一で、たとえ一枚の平らな圃場でもpHや養分量などの化学性も相当ばらつくことが知られている。そこで、分析用の土を採取する場合には1カ所からだけではなく、少なくとも5カ所から同量の土を採取し、バケツなどの中でよく混ぜ合わせることも大切である。
土壌診断室での分析では、0.5g程度のごく少量の土を使って分析を行なうことも多い。そのため、分析用試料は乾燥してから軽く粉砕し、ふるいを通して、土を均一に調整してから分析を行なう。土壌診断室によっては予め調整した土の提出を求めることも多いが、より正しい測定値を得るための大切な前処理なので、決して面倒と思ってはいけない。
また、機器による分析を伴うため、結果を入手するにはしばらく時間がかかる。それを待てなくて、試験紙などによる簡単な土壌診断分析キットを使う農家も多いが、それだけで済ますことはやめたほうがよい。少なくとも年に一度は、人の健康診断や人間ドックに相当する土壌診断室での詳しい分析を行なうべきだ。
通常行なう土壌診断分析の項目には、pH、EC、硝酸態窒素のように作物の栽培期間中に大きく変化するものと、CEC(陽イオン交換容量)、可給態(有効態)リン酸、交換性石灰・苦土やリン酸吸収係数のようにあまり変化しないものがある。皆さんに土壌診断分析キットで分析していただきたいのは前者の項目だ。なお、ECは硝酸態窒素量にほぼ支配されるので、いずれかの分析を行なえばよい。
畑あるいはハウスと水田とでは必要な分析項目が異なる。水田では、上記の項目のほかにアンモニア態窒素、可給態ケイ酸、遊離酸化鉄が必須である。逆にECと硝酸態窒素はなくてもよい。ほとんどの土壌診断室では、すべての土壌で腐植とリン酸吸収係数を分析しているが、土の色を見ればおおよその腐植含有量を判断できる。具体的には、黒みが全くなければ数%以下、やや黒みがあれば数~5%、かなり黒ければ5~10%、真っ黒であれば10%以上と見なせばよい。もうひとつのリン酸吸収係数は本来リン酸欠乏土壌を対象にする分析項目なので、園芸土壌などのように可給態リン酸過剰が明らかな場合には省略できる。園芸土壌では可給態リン酸のほかに水溶性リン酸と、最近蓄積傾向にあるとされている硫酸イオンの分析を通常分析項目に加えることが望まれる。
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後藤逸男 ゴトウイツオ
東京農業大学 名誉教授
全国土の会 会長
1950年生まれ。東京農業大学大学院修士課程を修了後、同大学の助手を経て95年より教授に就任し、2015年3月まで教鞭を執る。土壌学および肥料学を専門分野とし、農業生産現場に密着した実践的土壌学を目指す。89年に農家のための土と肥料の研究会「全国土の会」を立ち上げ、野菜・花き生産地の土壌診断と施肥改善対策の普及に尽力し続けている。現在は東京農業大学名誉教授、 全国土の会会長。
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