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次に「11日意見」と「28日意見」の両文書の関係。前者には盛り沢山な改革の要求項目が並んでいるのに、後者にはそのいくつかが抜け落ちている。それをもって新聞やテレビは、官邸・農水省が示した改革を、全農・農協族議員が骨抜きにしたとか、後退させたとかの解説をしているが、両文書を読み比べると、そういう解説は成り立たないはずだ。
「11日意見」には5つの要求項目が並んでいた。「28日意見」に引き継がれたのは、うち2つのみ。「生産資材」と「農産物販売」だ。逆に引き継がれなかったのは、「地域農協の信用事業の負担軽減等」「農業者の自由な経営展開の確保等」の2項目だ。「全農等の在り方」は、「生産資材」と「農産物販売」の中に盛り込むことにした。
「11日意見」の内容が過激だったのは、官邸・農水省が進める全農改革に農協組織がこぞって反対、それに激怒した安倍首相の気持ちをストレートに反映したからだ。一方の「28日意見」は、「11日意見」の「猛毒」部分だけを抜いた。安倍首相の気持ちも収まり、あえてその部分を盛り込まなかっただけのことである。
官邸対全農の攻防を
振り返る
11月7日の「方針」に話を戻し、安倍首相が全農に対し「激怒」を示した理由を説明してみたいと思う。
農協や全農改革の主な舞台は、推進会議である。13年1月から3年間続いた規制改革会議の後を受け継いで9月12日にスタートした。議長の大田弘子政策研究大学院大学教授は、安倍首相が信頼する構造改革派の学者だ。規制改革会議では議長代理を務めていた。彼女が議長に就いたことで、今後、推進会議が出す答申内容は、ほぼ想像できる。「11日意見」が出発点となり、全農や農林中金など農協組織の既得権にさらなるメスが入るということだ。
ところで11月7日「方針」の公表は唐突で異例だった。推進会議では農協改革や全農改革の議論がまるでなく、安倍首相の会議への出席も突然決まった。その日は4回目の全体会議。農業や農協問題を取り上げたのは10月24日に開かれた第3回の全体会議。議論のようなものはなく、今後の主な審議事項を確認しただけでいきなり結論が出てきたのだ。
官邸・農水省は、全農・農協族議員の巻き返しにあって劣勢に立たされていた。とくに全農改革に理解を示していたと思っていた全中の奥野長衛会長が、全農・農協族議員側に寝返ったことは、官邸・農水省にとって全農改革のシナリオが根底から崩れたことになる。当然、官邸・農水省は大ショックを受けたに違いない。奥野会長の寝返り宣言が明らかになったのは、この記事だ。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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