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しかし、封建社会がないにもかかわらず貴族的な特権階級が固定化しはじめたことに対して違和感や気持ち悪さをもつ人たちも少なくない。トランプを支持したのはそうした人たちだった。それは一般にいわれていたような教育のない貧困層ではなく、むしろ中間層以上の勤労者たちであった。
トランプも富裕層であるが、彼が志向するのは貴族主義ではない。アメリカンドリームとは、本来、階級や地位にかかわらず、だれにでも成功のチャンスがあるという前提の上に成り立つものであり、貴族的な階級社会の固定化とは真逆なのだ。
トランプのツイッターは
米国版『学問のすすめ』
トランプの政治的立場は、取引条件の同一化を重視する自由貿易派である。一方、民主党政権の外交スタンスのベースは表向き「相手国の立場に立つこと」であるが、実際にはグローバルな癒着や縁故主義がある。これは日本が進めてきた保護貿易とも相性がいい。
農業にしても、一見保護しているように見えて、実際には癒着を生みだす構造がつくられてきた。いわば、トランプは癒着や利権を守るために複雑化してしまったシステムを一掃して、「勤労者の保護」や「法の支配の維持」などを進めていくというわけだ。
浅川氏は、トランプのツイッターは米国版の『学問のすすめ』のようなものだという。福澤諭吉が説いたように、トランプもまた、お上に仕えるのが当たり前と考えている国民を、独立自尊の民にもどすためのわかりやすいメッセージを発し続けている、という。
浅川氏の解説から、そうしたトランプの現実的な理念は見えてくる。その一方で人種間対立や、移民や他者に対する差別がさらに進むことについての懸念は感じた。現にトランプの当選以後、移民や宗教的マイノリティへの差別に市民権が与えられたと早合点した者たちによる事件も各地で起きている。また、先日、トランプは温暖化対策の目標を定めたパリ協定からの離脱を示唆する発言もあった。
トランプはまず国内を立て直すことをめざすだろう。それがうまくいって国民の満足度が上がれば、「国際的」と呼ばれる他者の問題にも目が向くゆとりが生まれ、そちらもおのずと解決していくということなのかもしれない。
これまでは、その優先順位が逆だった。行きすぎたグローバリズムから身を引いて、ローカリズムの上に成立するグローバリズムをめざそうという意味では、しごく真っ当な立場なのかもしれない。 (田中真知)
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田中真知 タナカマチ
作家・翻訳家
1960年東京生まれ。作家・翻訳家。1990年より1997年までエジプト在住。著書に『アフリカ旅物語』(北東部編・中南部編、凱風社)『ある夜、ピラミッドで』(旅行人)、訳書にグラハム・ハンコック『神の刻印』(凱風社)、『惑星の暗号』(翔泳社)など。
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