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新・農業経営者ルポ

熊本大地震からのコメ作り 受け継がれる肥後もっこすの志

阿蘇山のカルデラに広がる60haという面積でコメ作りをしている(有)内田農場。父の孝昭から3年前にその経営を引き継いだ内田智也は2016年に相次ぐ試練に襲われた。大地震に豪雨、さらに噴火だ。「地域に貢献することを第一に考えたい」。誇り高き父からその意思を受け継いだ息子は被災した農地の復旧に取り組みながら、コメ作りの可能性を切り開こうとしている。 文・写真/窪田新之助、写真提供/(有)内田農場

マーケットインで
15品種のコメ作り

東京発、熊本行の飛行機に搭乗したのは2016年の12月下旬のよく晴れた日だった。2時間近く経って、ようやく熊本空港に到着しようかというころ、窓外から眼下を眺めると、見る人を圧倒するような巨大な「釜」が鎮座している。世界第2位の規模を誇るカルデラだ。そこに広がるのは短冊状の農地。内田農場はここで稲と大豆を作っている。
阿蘇カルデラにある農地の総面積は5500haを超えるそうだ。内田農場が経営する面積はその100分の1に当たる60ha。巨大カルデラの中で営農する農家や農業法人では最大規模だという。
筆者が初めて内田農場を訪れたのはちょうど1年前。そのとき経営の概要や内田がなぜ農業を仕事にすることになったのかをたずねている。当時聞いた話を振り返ってみよう。
その経営の特徴といえば、なんといってもコメの品種が15種類と多いこと。おそらく国内の農家で最多ではないだろうか。主食用米のほか、業務用米や加工用米、酒造好適米など多種多彩である。
これはマーケットインのコメ作りを大事にしているから。内田がよく口にするのは「寿司なら寿司に向くコメ、牛丼なら牛丼に向くコメがある」ということだ。たとえば多収性のハイブリッドライス「みつひかり」を生産しているのは牛丼用に使ってもらうため。この品種はたれが浸透しやすく、粘り気が少ないから牛丼チェーンに人気がある。そうした実需者の要望を突き詰めていった結果、これだけの種類のコメを生産するに至った。

水田は「守る」のではなく「活かす」

コメ作りに情熱をかける内田が父から経営を引き継いだのは30歳になる前の年。わずか3年前の話である。
そこに至るまでの経歴は絵に描いたような農業経営者への道である。熊本農業高校を卒業後、東京農業大学で作物学を専攻している。ただ、実のところ学生時代には農業をする意思はなかったそうだ。
というのも熊本農業高校に進学したのはプロのサッカー選手になるため。同校はサッカーの名門校で、内田はいつかJリーグで活躍することを夢見ていた。だが、「オファーがあったのは、JはJでもJリーグではなくJA阿蘇だった」というのは彼がよく口にする冗談である。
プロのサッカー選手としての夢が破れ、東京農業大学に進学する。授業にはあまり出ず、卒業後はカフェで仕事をするつもりだったそうだ。

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