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特集

ルポに登場したあの人はいま(2)【東北編】


国が定めた基準値を下回っている商品を販売しながら、鈴木氏は考えた。もし旦那さんが買ってくれたとしても、家に帰って奥さんに食べさせられるのか、お母さんが買ってくれたとしても、子供たちに食べさせられるのか。自分にも孫がいることを考えると、お客様が不安を感じて買えないのはもっともだと思った。
安全かと尋ねるお客様に返す言葉がなかった。
「安全ですとは言えませんでした。なぜかというと自分にもわかりませんから。いまは数値を示し、気になるなら買わないでくださいと言ってお客様に判断を委ねています」
それまで販売促進を担当していた娘も、店頭で商品を紹介するPOPに書く言葉が見つからないと言ってペンを置いた。
顧客の数も売り上げも激減し、設備投資の借金が残った。

【汚したら後始末してほしいというシンプルな訴え】

鈴木氏は同じような立場の専業農家7人とともに、東京電力を相手取り、農地の「原状回復」を求める民事訴訟を起こした。現在も審理中である。念のため、いわゆる福島県の農業者など原告約4000人による「生業訴訟」とは別物であることを言い添えておきたい。
鈴木氏は訴えの内容を一言で説明してくれた。
「汚したら後始末して」
シンプルな訴えだ
最初に行動を起こしたのは11年6月のことである。東京地検特捜部に自分で書いた告訴状を送ったが、そのまま返された。その後、弁護士に依頼し、同年12月に再度東京地検特捜部に告訴したが、今度は棄却された。鈴木氏は、弁護士に依頼したときから、東京地検特捜部に棄却されたら裁判を起こそうという意識があり、すでに同年末には関係者に訴えの意志を語っている。
準備を進め、14年10月に福島地方裁判所郡山支部民事部に提訴してから、審理は2年以上続いている。今年2月10日には15回目となる裁判所での口頭弁論がある。鈴木氏は、今春には判決が出るだろうと期待している。
鈴木氏が案内してくれた事務所に入ると、山のような書類が目に飛び込んできた。これまでの裁判の訴状や答弁書から、それを準備するために調べた資料、原子力発電所に関する資料などが棚いっぱいに置いてある。報道資料はファイリングしきれず、仕分けてダンボール箱で保管している。
これほど書類を集めるようになったのは、「裁判というのは、裁判官に納得してもらうために必要な証拠書類を準備すること」だと悟ったからだ。
実際の訴訟では、主位的請求と予備的請求がある。主位的請求というのは一番優先順位が高い請求で、予備的請求というのは主位的請求が認められないときのために申し立てる主張のことだ。

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