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特集

ルポに登場したあの人はいま(2)【東北編】



【冷めてもおいしいコメ】

しかも、さっそく成果を挙げている。それは晩生のうるち種である「冷めてもおいしい米」。冷ますと、甘味が増すのが特徴だという。「とくにごはんを飲み込んだ後に甘味が来る。ステーキや塩鮭に合う」という。うまく食べるポイントは二つ。一つは洗米したら1~2時間浸漬させること。もう一つは炊き上がったコメはほぐして、空気に触れさせること。
現段階においてこのコメに関しては品種登録をしていない。理由は二つある。一つは「おいしいコメ」のデビューが相次いでいること。「つや姫」の登場以降、「青天の霹靂」「新之助」などと続いている。いま世に送り込んだところで、かすんで見えてしまう可能性が高い。
もう一つの理由は、作りたいという農家や産地の登場を待っているから。育成者権が守られるのは登録から年限が決まってているので、作りたいという人が現れてから品種登録を出願するつもりでいる。

【狙うは超多収品種】

じつのところ、平塚氏が本当に育種したいのは酒米でもないし、冷めてもおいしいコメでもない。超多収性の品種である。理由は戦後の食糧事情と関連している。
「俺たちの小さいときっていうのは、うちは農家だからコメの飯は腹いっぱい食えたけど、みんながそういうわけではなかった。たとえば、小学校のときに1泊で遠足するとしたら、コメを持っていくわけだ。それを旅館に預けて、ご飯を炊いてもらうわけ。そういう時代を経験してきたから、コメが大切だというのは、理屈ではなく、体の芯がそう認識している。卵でも、いまの子供たちはごちそうだと思わないのに対し、70歳の人たちはいまでもごちそうだと思ってしまうのが抜けないのと同じだっちゃ」
ではなぜ最初から多収の品種に力を入れなかったのか。いや、平塚氏は育種を手がける前から、ずっとそれを生み出すための仕事をしてきた。ただ、その過程でたまたま生まれたのが酒米であり、冷めてもおいしいコメだったのだ。
「メーカーではよくあることでしょう、本当に作りたい製品は別にあるんだけど、途中で小さい製品を出すということが。小さい製品を出すことで、狙いの製品を生み出すための開発費を稼ごうということ。その小さい製品というのが酒米や冷めてもおいしいコメなんだね。これらは本業ではない。やりたいのはあくまで多収なんだ」 
つまり、平塚氏がいま取りかかっているのは、まさに12年前のルポの最後に語っていた「草型育種の極致」である。

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