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一度は出ていった身である。相当な覚悟を持って帰ってきたのだろう。一雄氏は、親の目から見ても息子の農業に向き合う姿勢は真面目そのものだと語る。息子に面と向かってほめることはないと言うので、勝馬氏が同席する前でもう一度、一雄氏にネギの出来はどうかと聞いてみた。
「いやあ、立派なんじゃないの。俺だったら、作れないもの。夏場の除草とか大変なのに」
初めて父の口から聞くほめ言葉に、勝馬氏もニヤリとした。こうして鶴岡協同ファームに後継ぎが誕生した。
【家族で生産・加工・販売の分社化へ】
後継ぎの誕生によって、鶴岡協同ファームは分社化へと進化し始めている。
一雄氏は、学校を卒業した蘭さんに活躍の場を用意していた。会社が03年から手がけていた民田ナスの事業を分社化したのだ。蘭さんは15年、鶴岡協同ファームのグループ会社「らん工房」の主宰に就任した。実際には、五十嵐夫妻と蘭さんの夫の3人がナスを育て、蘭さんは「民田ナスのからし漬け」、切り餅やおこわ、豆ごはんなどもち米を使用した加工・販売を担当する。16年には、2000万円を借り入れ、新しい加工場を新設した。
「父を頼りにしていますが、最終的に加工場を新設すると決めたのは私ですから、まずは2000万円の返済を目標に日々精進します」(蘭さん)
蘭さんは1歳半の子供を持つ母でもある。この4月からは保育園に預けて働くという。一雄氏はそんな娘を心配しつつ見守っている。
一方、ネギについては勝馬氏のやり方に口を出さない一雄氏も、水稲についてはつい口数が多くなるようだ。
「農業は経験の積み重ねだから、息子も失敗しながら覚えていけばいいと思っています。でも、経営的にコメは絶対に失敗できないから、息子が肥培管理した後に、見回りに行くんですよ。ときどき注意しますよ。失敗もありますが進歩しています」
もうすぐコメもすべて任せられそうだ。そんな口ぶりである。しかし、一雄氏はまたもや息子の申し出に驚かされた。
「勝馬が、早く社長になりたいって言うんですよ。じゃ、俺はどうしたらいいのって聞いたら、もう辞めてもらって結構です、だって」
熱心に農業に励む息子を見るにつけ、親としては早く社長にさせてやりたいと思う。しかし、一雄氏も引退するにはあまりにも早すぎる。珍しい後継者問題だ。
そこで、一雄氏が考えたのは長女の蘭さんのケースと同じ分社化という解決策だ。コメの生産部門と販売部門を分け、勝馬氏は生産部門の会社経営を、一雄氏と明子さんは販売部門の会社経営をしようという構想だ。
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