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新・農業経営者ルポ

キタアカリやトヨシロを生んだ元育種家の父の教えを守り、ひたすらおいしさだけを追求


「自分マーケティング」という言葉があるが、拓が行なっているのはまさにそれだ。とはいえ、この手法が万人に通用するわけではない。拓には芳樹という幹があった点で恵まれていた。

キタアカリや
インカのめざめ以外の品種を
主力で手がける日は来るのか

08年のいわゆるリーマン・ショックが起きた秋以降はファーム・ウメムラにも不況の波が押し寄せ、飲食店との取引がだいぶ減ったという。11年の東日本大震災では流通が遮断された。また、12年の6月には拓がくも膜下出血で倒れた。
「すぐに救急車を呼べて出血量が少なかったのでなんの後遺症もありませんでした。入院中は取引先のシェフとかライターさんとかが手伝いに来ていただいていて助かりました」
08年にはリーマン・ショック後に東京の卸業者を引き合わせてもらう機会に接し、就農2年目に立ち上げていた日記代わりのブログが多少なりとも販売につながったりと大小さまざまな縁があった。昨年からは、拓の冬場のアルバイト先でもある、北海道土産全般を扱う会社が一般家庭向けの野菜の詰め合わせセットを企画してくれ、高いリピート率を維持して今年に期待を抱かせている。幾度もの苦境をはねのけ、はたから見れば経営は軌道に乗ったかのように映る。それでも、拓の胸中は穏やかではなかった。
「ウチは契約じゃないですからね。毎年出荷できるものができたらお客さんにファクスを流して、それに数量を書き込んでご返信していただくやり方なんですけど、毎回最初はドキドキしながら送っていますよ。そんなところに『待ってました!』というように一筆入りの注文が届くと、やっていてよかったと思えます」
拓は営業こそしていないが、農作業のない冬場は取引先に食事へ行って親睦を深めている。ここで一つ、拓の長男である恵多の飲食店でのエピソードを披露したい。取引先の飲食店で料理を味わっていた梅村一家の前にジャガイモ料理が出された。恵多は口にするなりこう言った。
「このジャガイモ、おいしくない。ウチのじゃない」
拓はそうとも思わずに食べたが、後にシェフに確かめると本当に他者のものだった。以来、収穫したら恵多に食べさせ、食味をチェックしてから販売するように切り替えている。味覚は幼いうちに形成される。芳樹の恵多に対する英才教育はこんな形で生かされているといえるだろう。
ファーム・ウメムラでは、4.7haのうち、毎年70?aに休閑緑肥を作付け、1haでジャガイモを生産している。品種は三つで、芳樹が関与したキタアカリとインカのめざめ、それにインカのめざめの芽条変異であるインカルージュになる。インカの星という公的に種イモが増殖されていない超希少品種もごく一部にあるが、これは基本的に販売目的で栽培しているものではない。いずれにしても、拓の頭では恵多の発言に象徴されるように、おいしさがすべてにおいてのベースになっている。

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