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土と施肥の基礎知識

転炉スラグの特性と使い方


2.転炉スラグとは

製鉄所では高炉の中に鉄鉱石と石灰岩、それにコークスを加えて銑鉄を作る。少量の炭素やリン、硫黄などを含む銑鉄はもろいため、溶けた銑鉄を転炉と呼ばれる炉に入れ、そこに生石灰などの副材料を加えて酸素を吹きつける。すると、銑鉄中の不純物が取り除かれ、純度の高い鋼となる(図1)。こうしてできた鋼から自動車用鋼板やレール、鋼管などさまざまな鉄鋼製品が作られる。
このような製鋼工程の副産物が転炉スラグだ。ケイ酸カルシウムを主体として少量の酸化カルシウムのほか、鉄・マンガン・マグネシウム・リン酸・ホウ素などを含む(表1)。転炉の中は約1500℃にも達するため、仮に原料中に有害成分が含まれていたとしても、沸点が低いカドミウムやヒ素、水銀などの有害元素は揮散し、PCBやダイオキシンなどは熱分解してしまう。ましてや原料は天然鉱物で、“安全・安心な資材”であることはいうまでもない。
なお、高炉で銑鉄がつくられる際の副産物は高炉スラグといい、転炉スラグと合わせて鉄鋼スラグと呼ばれる。高炉スラグの主成分は非晶質のケイ酸カルシウムで、55年から「ケイカル(鉱さいケイ酸質肥料)」として主に水田に施用される。68年頃には年間130万t以上に及んだが、現在ではその1/10程度に留まっている。
一方、転炉スラグは52年に制定された耕土培養法(84年に廃止)で遊離酸化鉄含有量の少ない老朽化水田に対する鉄補給資材(含鉄物)として指定を受け、主に西日本を中心とする花崗岩風化土壌(まさ土)地帯の水田で利用されてきた。しかし、それ以外では、東北地方の草地で既存の石灰資材の代替として利用されていたに過ぎなかった。
現在、転炉スラグとして市販されている資材は、粒径や組成の違いにより副産石灰肥料・混合石灰肥料・特殊肥料のいずれかとして登録された、れっきとした肥料である。

3.転炉スラグの威力

未耕地から採取した酸性土壌に苦土カルと転炉スラグをそれぞれ施用し、pHを7.2に酸性改良して栽培したコマツナが写真1である。転炉スラグ区では生育に支障がないが、苦土カル区ではほとんど育たなかった。そこで、苦土カルに微量要素肥料(FTE)を併用すると転炉スラグ区と同様に生育した。この試験から転炉スラグの特性が明らかになった。
その理屈はこうだ。土に施用されると、作物の根は転炉スラグの粒に絡みつく。転炉スラグに含まれる微量元素は水に溶けないが、作物の根から分泌される有機酸によって溶かされる。その結果、作物は根から微量元素を直接吸収できるようになる。このような現象を接触吸収という。土壌酸性改良効果に影響する転炉スラグのアルカリ度(石灰と苦土含有量の合計)は炭カルや苦土カリに比べて低い。同じpHに改良するのに既存資材の2倍以上の施用量を必要とするが、そのおかげで作物の根と転炉スラグの粒が土中で接触する確率が高まり、微量要素が吸収されやすくなる。

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