記事閲覧
それにしても驚いたのは、いまどきこんな初歩的な独禁法違反を平気で犯す農協がまだあるということだった。農協の出荷に応じない農家を生産部会から除名したり、集出荷場を使わせなかったりするケースは、他の農協でもたまにあるが、この事案のポイントは、農協が定めた出荷量に違反した場合、農家へ罰金を科した後段部分にある。これまで聞いたことがない違反事例だ。
屈辱とショック
価格補てん打ち切りも
排除措置命令はJA土佐あきにとって大きな屈辱でありショックでもあった。屈辱とは、冬と春のシーズンに出荷するナスのトップ産地で、しかも農水省の指定野菜価格安定対策事業の指定産地としてリーダー的役割を期待されているJA土佐あきが、金額ベースで地域でのナス出荷が5割を切っていたことだ。指定産地なので、価格が下がったときに国などから補てん金を受けることができる。ショックとは、「4割超」という数字が公取委によって公表されたことで、朝日新聞も指摘した「補助金が打ち切られる懸念」という問題にも直面することになった。排除措置命令書による当該部分の記述はこうだ。
「ナスの都道府県別出荷重量は、高知県が毎年全国第1位であり、その大部分は土佐あき農協管内から出荷されたものである。また、2012年4月から2015年3月までの3年間に土佐あき農協が高知県園芸農業協同組合連合会(高知県園芸連)から支払を受けたナスの販売金額は、同販売金額と商系三者が仲卸業者等に販売したナスの販売金額との合計の4割を超えていた」
「商系三者」と呼ぶのは、JA土佐あきの管内及び周辺で卸売市場を開設している青果卸売業者のことだ。安芸市周辺の2市4町2村で生産されるナスのうち、JA土佐あきが集荷したのが「4割超」という意味で、残り「5割超」は、その商系三者と呼ぶ青果卸売業者が集荷していることを意味する。
この数字が重要な意味を持つのは、先に触れたように「指定産地」の要件を満たしていないことを示すからだ。要件を満たさなければ、「指定産地」から外れ、「指定野菜価格安定対策事業」による価格下落時の補てん金をもらえなくなるのだ。朝日新聞が「補助金」と書いたのは、この補てん金のことで、国が負担する分が、税金によって賄われるので、「補助金」と表現したようだ。
その価格補てんは、生産者、道府県、国の3者が積み立てた資金から、平均販売価格が平均価格の90%(保証基準額)を下回った場合、保証基準額と平均販売額との差額を補てん(補給金を交付する)するものだ。
会員の方はここからログイン
土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
ランキング
WHAT'S NEW
- 有料会員申し込み受付終了のお知らせ
- (2024/03/05)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2023/07/26)
- 年末年始休業のお知らせ
- (2022/12/23)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2022/07/28)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2021/08/10)