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高知県園芸連は、ナスについて2014園芸年度(13年9月~14年8月)に、補てん金という名目で国から4730万円の補助金を受けていた。JA土佐あきの区域内は、高知県産ナスの9割強の生産シェアがある。これから推測すると、JA土佐あきは4000万円強の補助金を受け取っていたことになる。これはJA土佐あきが、販売事業で稼ぐ利益(15年度約4115万円)をわずかに上回る額。指定野菜の産地から外れたら、この補助金が入ってこなくなるのだ。
公取委が指摘したJA土佐あきの出荷シェア「4割超」という数字をみて思い出したのは、会計検査院の「検査決算報告」だ。指定野菜価格安定対策事業を取り上げ、産地要件を満たしていないのに、補てん金を受け取っていた産地を取り上げた事例は、筆者の知る限り1987年と99年の2回あった。後者については、24道県105産地も産地要件を満たしていないのに指定産地になっていた。会計検査院の指摘を受けた農水省は、その指定の解除と改善策を講じていた。2度あることは3度ある。農水省はJA土佐あきの数量ベースの出荷シェアについて正確に確認しておく必要があると思う。
系統出荷の高コスト構造
排除措置命令書は、JA土佐あきが抱える問題点を厳しく指摘している。とりわけJA土佐あきの組合員が、農協離れを起こす原因についての説明は、農協の経営問題を考察するうえで大いに参考になった。
「土佐あき農協の組合員の中には、卸売市場におけるナスの取引価格によっては系統外出荷を行う方が系統出荷を行うよりも多くの販売代金を得られる場合があること、ナスの販売代金が早期に支払われること等から、系統出荷を行うことに加え、系統外出荷も行いたいという意向を有している者がいる」
命令書は、JA土佐あきにナスを出荷した場合、多くの販売代金を得られない理由として、高い手数料率が原因と指摘している。農協に出荷した場合は「11.5%」。農協に出荷せず直接卸売市場に出荷した場合は「8~8.5%」だ。その差は、わずか3~3.5%と目くじらを立てるような数字ではないように思うが、実際、農家が手にする所得の差は、そんなものでは済まない。
農協に対して農家が不満を抱くのは、肥料・農薬やビニールなど生産資材、段ボールなど包装資材、選果場の利用料、輸送運賃など経費がライバルの商人系業者が営む卸売市場より割高なことだ。そのうえ公取委が指摘したように、販売代金の支払いまで遅い。農協出荷の場合、出荷を受けつけた日から「おおむね20日後」、商人系業者の場合、最も早いのは「翌日」と説明している。農家にとって農協を利用するメリットはないも等しい。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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