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JA岩井の場合、出荷野菜の規格は12等級に分かれ、それぞれ価格が異なる(表3参照)。最上がA2L(Aは秀)、最下位はBあるいは規格外である。16年初夏の場合、夏ネギの最上位A2Lの価格は1本70円、最下位Bは30円である(16年5月下旬)。16年は市況が良い年で、通常は1ケースの価格はトップ2500円、レギュラー1800円、下1000円、一番安いもの800~600円で、価格差は3倍ある。
ただし、この規格では「野菜名人」の野菜は別扱いになっている。野菜名人の出荷価格はレギュラー品に比べ1ケース+150円~+200円である。約1割高い。
〈野菜名人の創設〉
この価格差こそ、品質の“高位平準化”への効果的な仕組みである。自分の商品が1000円になるか、2000円になるかで、農家経営は大きく違う。誰しも、収入増加を目指し、上位規格になるよう栽培管理に努力する。つまり、利潤動機が品質の高位平準化を導くのである。16年度(5~7月)の場合、上位4基準(2LとL)に56%が集中している(2L24%、L32%)。
JA岩井は、品質向上、高付加価値化の推進として、「野菜名人」制度を作っている(1994年創設)。園芸部会の中から、高い意識を持ち、研究心と努力の大きい農家を「野菜名人」と認定している。野菜名人は、土づくりからこだわり、高品質野菜の生産を義務付けられ、栽培管理はJAの規定通りに行ない(減化学肥料)、また、肥料・農薬はJAが指定したものを使わなければならない。肥料はネギの場合、高品質有機50%以上を含むもの、レタスは80%以上のものを義務付けられている(レギュラー品もネギ50%、レタス70%)。
野菜名人は早出しネギしかやらない。皆ができないことをやる。それをプライドにしている。また、有機肥料であり、名人のネギは甘みがある。高品質化に取り組んでいることが評価され、野菜名人の野菜はブランド品扱いで、差別化商品として出荷されている。価格はレギュラー品より約1割高い。ただし、この1割程度の価格差はあまりインセンティブにはなっていない(そもそもコストも高いので)。むしろ、早出しで高値を得ている。その苦労への対価としての高値である。園芸部会の中で、野菜名人は減ってきている。ピーク時50名が、現在は25名である。
野菜名人制度の創設者である藤井俊夫氏(長須地区)によると、「面倒。その割には価格差も大きくない」「自分たちはプライドでやっている。若い人は名人になりたがらない」。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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