記事閲覧
地域の発展を考えたとき、こうしたチャンピオン制度は重要な仕組みである。せっかくのブランド化への制度工夫であるから、名人制度をもっと生かせないものであろうか。販売価格をもっと上げ、レギュラー品との価格差を大きくできないか。市場の制約で困難であれば、肥料価格を下げて利益が出るようにしてはどうか。そうなれば、名人認定希望者が増えるであろう。野菜名人が増え、最高品質野菜の出荷が増えれば、販売額が増え、販売手数料も増える。肥料を値下げしてもJA購買事業の損失はある程度相殺できるのではないか。
ここは戦略的発想が必要と思われる。「縛り」だけではダメ。若い人に興味を持たれるようにするには、自由な創意工夫ができる余地を大きくし、「儲かる農業」にすることだ。
なお、JA岩井はGAPチェックリスト(農業生産工程管理簿)による安全な野菜づくりのための作業確認を行なっている。ただし、GAP認定を取得しているわけではない。
(4) 農家に顔を向けた農協
―高い共販率、低い系統利用率―
JA岩井は、系統利用率は県内他JAと比較して低い。平成27事業年度『茨城県農業協同組合の現況』(茨城県農協中央会編)によると、JA岩井の系統利用率は肥料92%(県平均96%)、農薬67%(県79%)、農機87%(県91%)、包装資材48%(県79%)、種苗36%(県71%)、購買事業合計69%(県78%)であり、他のJAよりわずかではあるが低い。その点について聞くと、「農家のためだから、資材は安いところから仕入れる」「商系業者と競争させて、業者が安ければそこから買う」「チクチク言われることもあるが、経済連もそれなりの価格にしてくれる」(JA岩井改革推進室長内田芳美氏)。農家に顔を向けた農協である。農家の利益を優先している点、JA岩井は「良い農協」だ。
流通業者やメーカーも、JA岩井への売り込みにしのぎを削っている。岩井地区はブランド野菜の産地だから、「岩井で使ってくれている」ということになれば、どの産地でもその資材を使いたがる。種苗メーカーも肥料メーカーも、「岩井御用達」をセールストークに使える。「岩井ブランド」が発生しているのである。
“農家段階”の系統利用率(農家が農業資材をJA経由で購入する割合)は、約4割という。農家は資材の6割は商系の業者から買っているわけだ。農家もJAの購買事業に縛られず、商系が安ければ、そこから買っている。
会員の方はここからログイン
叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
ランキング
WHAT'S NEW
- 有料会員申し込み受付終了のお知らせ
- (2024/03/05)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2023/07/26)
- 年末年始休業のお知らせ
- (2022/12/23)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2022/07/28)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2021/08/10)