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経済学では「総合生産性」(TFP、Total Factor Productivity)を問題にする。投入する全ての生産要素(資本、労働、土地)に比した産出高を問題にする。労働生産性が高いとしても、機械化が進み資本投資も増えている場合、インプットの合計(全生産要素)に対しては高いとは限らない。その結果、機械化貧乏ということも起きうる。こうした部分的な生産要素に対する産出高の比を部分生産性と言って、「総合生産性」とは区別する。重要なのは全生産要素に対する「総合生産性」である。
岩井地区は露地栽培であるから、資本投資が少ないので、総合生産性TFPでは県内トップに並ぶのではないか。つまり、岩井地区は生産性が極めて高い農業といえよう。
岩井地区の農家は「単なる業主」(東畑精一)ではない。当たり前のことだが、昔ながらの日々ルーチン化された農作業の反復ではなく、自ら経営判断して、作付選択や取引先を決めている。共販率は7割であって、3割は自ら出荷先を選んでいる。JA園芸部会の農家も、しがらみはゼロとは言えないが、販売価格が高く、JA内に留まる選択をしても利益になるからであって、無分別ではない。作付選択も自分で考えている。農業資材の購入も、JA園芸部会の会員でさえ、農協から購入するのは4割に過ぎない。
法人化して、JAを卒業した農業経営者もいる(十数人)。規模拡大に成功した人たちである。法人化は「卒業プログラム」と考えればいい。小零細な農家が多い日本の現状では、JAも法人化も、多様な経営形態の一つと考えればいいのであって、JAと法人化は競争関係であって、対立概念としてとらえる必要はない。
JA岩井が更なる躍進を考える場合、農家の能力を一段と引き上げることが条件となる。産地の持続的発展はイノベーションが必要だ。それを遂行するのは農業経営者である。農家の能力をさらに高め、そして、それを100%発揮させる仕組みを作ることがベストな方法である。「野菜名人」がもっと増える条件を整備することはその一端となるのではないか。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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