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わかりやすくいえば、ダイコンの根には土の中の休眠胞子を掃除機のように吸い取るしくみが備わっている。このような特性を持つ植物を「おとり植物」といい、ダイコンのほかにハダイコンなどがある。ハダイコンはダイコンより細根が多いため、休眠胞子の吸い取り効果に優れ、そのまま鋤き込めば緑肥としての効果も期待できる。
根こぶ病が発病しやすいハクサイやキャベツなどには多くの抵抗性品種が市販されていて、根こぶ病に苦しめられる農家はその恩恵を受けている。実は、このような抵抗性品種とは根にダイコンと同じような掃除機機能を付加したものである。しかし、抵抗性品種を作付けし続けるとやがて罹病性が復活してこぶが付くようになるので、農家にとって根本的な根こぶ病対策とはならない。
ダイコンやハダイコンは抵抗性品種のように罹病性が復活することがないため、それらの作付けを繰り返せば、土の中の休眠胞子が吸い取られて徐々に菌密度が低下する。しかし、その後にキャベツ、ハクサイ、ブロッコリーなどの罹病性野菜を栽培すると、根こぶ病が復活してしまう可能性が高い。何かよい方法がないだろうか。そこで、お勧めしたい方法が3月号で紹介した転炉スラグの活用だ。
3.転炉スラグで根こぶ病を
根絶する
根こぶ病は土壌が酸性化するほど発病しやすく、pHを7.2程度以上に高めると抑制できることが従来から知られていた。しかし、一方では畑土壌のpHは6.0~6.5とすることが野菜栽培技術の常識だったため、土壌の酸性改良だけでの根こぶ病対策は実用的ではなかった。そこで、土のpHを7.5程度まで高めても微量要素欠乏を起こしにくい転炉スラグを施用して徹底的な酸性改良を行なった結果、写真2のように顕著な根こぶ病発病抑制効果が認められた。この技術を開発した1970年代当初は前述した「常識の壁」に阻まれ、非常識との批判も受けたが、最近では根こぶ病対策のひとつとして全国的に普及しつつある。
なぜ、土壌pHを7.5程度まで高めると根こぶ病の発病が抑制されるのか。それはいまでも謎である。筆者らの研究では土壌pHを高めた状態で根こぶ病罹病性の野菜を栽培すると、一次感染はするが、二次感染はしない。すなわち、キャベツやハクサイの根にダイコンの根と同じような掃除機の機能が備わることがわかった。
土壌病害が発生する最大の原因は連作である。そのため、連作をしないことが土壌病害対策の基本となるが、根こぶ病対策ではあえてアブラナ科野菜を連作することで発病を抑制するばかりか、土壌中の休眠胞子密度まで下げることができる。
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後藤逸男 ゴトウイツオ
東京農業大学 名誉教授
全国土の会 会長
1950年生まれ。東京農業大学大学院修士課程を修了後、同大学の助手を経て95年より教授に就任し、2015年3月まで教鞭を執る。土壌学および肥料学を専門分野とし、農業生産現場に密着した実践的土壌学を目指す。89年に農家のための土と肥料の研究会「全国土の会」を立ち上げ、野菜・花き生産地の土壌診断と施肥改善対策の普及に尽力し続けている。現在は東京農業大学名誉教授、 全国土の会会長。
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