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実例を紹介しよう。ブロッコリー根こぶ病で全滅した東京都三鷹市の畑に転炉スラグを5t/10a施用して、畑のpHを5.8から7.9に高めた後、転炉スラグを再施用せずに10年以上にわたってブロッコリーかカリフラワーを栽培したが、根こぶ病は発生せず、休眠胞子密度は4年目には検出限界以下となった(表1)。
4.総合防除対策で
根こぶ病を抑える方法
転炉スラグを施用して土壌pHを高めた後にアブラナ科野菜を連作して根こぶ病を根絶する技は、水稲収穫後の水田でアブラナ科野菜を栽培する地域では通用しないこともある。フザリウム病害など糸状菌(カビ)が原因となる土壌病害では、野菜収穫後に水田化すれば、好気性微生物である病原菌が窒息して菌密度が低下する。しかし、根こぶ病の休眠胞子は水中でも生存可能で、逆に生息域を広げてしまう。さらに、水田では水はけが悪いため根こぶ病には最適の発病条件となる。水稲収穫後のアブラナ科野菜栽培では、転炉スラグの施用だけでなく、高畝栽培や殺菌剤の施用などを併用して対策を講じる必要がある。
根こぶ病対策用の殺菌剤には、休眠胞子の発芽を抑制する薬剤(フルスルファミド、フルアジナム)と発芽後の遊走子を殺す薬剤(アミスルブロム)、石灰窒素などがある。いずれも発病抑制には有効だが、おとり植物を作付けする場合にはフルスルファミド、フルアジナムとの併用は避けたほうがよい。石灰窒素を使う場合には、その分の窒素肥料を削減する。
転炉スラグを施用後にアブラナ科野菜を連作して休眠胞子を減らす技は、あくまで根こぶ病防除対策のいわば裏技である。例えば、高pHでハクサイを連作すると黄化病が出やすくなるので、根こぶ病が発病しなくなれば、連作を止めて輪作に戻す。埼玉県などで行なわれているスイートコーンとブロッコリーの輪作はそのよい事例だ。スイートコーンの雌穂収穫後に茎葉を緑肥として鋤き込めば、よい有機物補給源ともなる。
最後に、ジャガイモを栽培する畑では、転炉スラグを施用して土壌pHを高めると必ずといってよいほど、そうか病が発生するので注意してほしい。
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後藤逸男 ゴトウイツオ
東京農業大学 名誉教授
全国土の会 会長
1950年生まれ。東京農業大学大学院修士課程を修了後、同大学の助手を経て95年より教授に就任し、2015年3月まで教鞭を執る。土壌学および肥料学を専門分野とし、農業生産現場に密着した実践的土壌学を目指す。89年に農家のための土と肥料の研究会「全国土の会」を立ち上げ、野菜・花き生産地の土壌診断と施肥改善対策の普及に尽力し続けている。現在は東京農業大学名誉教授、 全国土の会会長。
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