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【土と施肥の基礎知識】
「土力」を減らさない「努力」
- 東京農業大学 名誉教授 全国土の会 会長 後藤逸男
- 第19回 2017年07月07日
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筆者らは1980年代から全国の野菜産地で土壌診断調査を行なってきた。
当初は調査地域の市町村長やJA組合長などに調査協力依頼文書を提出して許可を得た上で調査地に入っていた。しかし、しばらくすると逆に野菜産地から調査を頼まれるようになった。連れて行かれる現場は、決まって土壌病害が多発した野菜畑やハウスで、そのひとつがセルリー萎黄病で深刻化した静岡県浜松市のセルリー産地であった。セルリー萎黄病はフザリウムという糸状菌(かび)が根に感染して起こる土壌病害で、多種の作物に萎黄病の他にも萎凋病や根腐病などさまざまな病害をもたらす。
このセルリー産地の土は天竜川流域の灰色低地土で、土性は壌土から砂壌土、陽イオン交換容量は15~20、リン酸吸収係数は500程度で、適度な土壌物理性と保肥力を持ち、リン酸が効きやすい肥沃な土壌であった。ただし、元来腐植含有量が少ない土であるため堆肥の多量施用が当たり前のように行なわれていた。堆肥原料として牛糞などの家畜糞の他に、近隣に多い水産加工工場などから出る食品廃棄物なども混ぜられた堆肥で、それらの中には堆肥1tに5~20kgのリン酸、5~30kgのカリが含まれるような堆肥もあった。窒素も10kg程度含まれていたが、熟度の高い堆肥で窒素が無機化しにくい。そのような堆肥を施用すれば、足りなくなる窒素だけを施せばよいはずだが、「堆肥は土づくり資材で肥やしではない」という農家の固定概念で、窒素・リン酸・カリが横並びあるいはリン酸施用量の多い山型の施肥が行なわれていた。
この地域のように、連作と肥沃な土に対する間違った土づくりがセルリー萎黄病の発病を招いてしまった。
このセルリー産地の土は天竜川流域の灰色低地土で、土性は壌土から砂壌土、陽イオン交換容量は15~20、リン酸吸収係数は500程度で、適度な土壌物理性と保肥力を持ち、リン酸が効きやすい肥沃な土壌であった。ただし、元来腐植含有量が少ない土であるため堆肥の多量施用が当たり前のように行なわれていた。堆肥原料として牛糞などの家畜糞の他に、近隣に多い水産加工工場などから出る食品廃棄物なども混ぜられた堆肥で、それらの中には堆肥1tに5~20kgのリン酸、5~30kgのカリが含まれるような堆肥もあった。窒素も10kg程度含まれていたが、熟度の高い堆肥で窒素が無機化しにくい。そのような堆肥を施用すれば、足りなくなる窒素だけを施せばよいはずだが、「堆肥は土づくり資材で肥やしではない」という農家の固定概念で、窒素・リン酸・カリが横並びあるいはリン酸施用量の多い山型の施肥が行なわれていた。
この地域のように、連作と肥沃な土に対する間違った土づくりがセルリー萎黄病の発病を招いてしまった。
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後藤逸男 ゴトウイツオ
東京農業大学 名誉教授
全国土の会 会長
1950年生まれ。東京農業大学大学院修士課程を修了後、同大学の助手を経て95年より教授に就任し、2015年3月まで教鞭を執る。土壌学および肥料学を専門分野とし、農業生産現場に密着した実践的土壌学を目指す。89年に農家のための土と肥料の研究会「全国土の会」を立ち上げ、野菜・花き生産地の土壌診断と施肥改善対策の普及に尽力し続けている。現在は東京農業大学名誉教授、 全国土の会会長。
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