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(2)は、その理由を示したものである。「地域の意向」とは、自由に作りたいという生産者の意向をストレートに代弁した。次いで「集荷業者・農業者実状と乖離」とは、素直に解釈すれば、県や市町村が「生産目安」を提示しても、その拘束力は期待できないと考え、このような表現にしたようだ。その認識は正しい。
(3)は、そのような状態を踏まえた結果として、新潟県にとっての最大目標は、全体の需要を伸ばすこと。そのためには、生産者に目標感の伴う「生産目安」の市町村を通じた提示は控えて、県全体の「生産目安」の提示だけにとどめたいという結論に至ったのであろう。
新潟県によると、最終報告をまとめるに際して、国が15年前の2002年に公表した「米政策改革大綱」を参考にしたようだ。その大綱は、米政策の将来方向を示したもので、閣議決定を経たうえで公表される。法律のような拘束力はないが、国民に約束した政府の方針だ。そこに掲げた目標を達成する強い意志を示すため、2010年(平成22年)の実現に向けてのロードマップ(工程表)まで掲げていた。まず生産調整の基本的なスタンスについて、こう高らかに宣言していた。
「平成20年度(2008年)からは農業者・農業者団体が主役となる需給調整を国と連携して構築(平成18年度に移行への条件整備等の状況を検証)」
具体的には、従来の「国が県・市町村を通じて減反面積を配分することによって農業者には強制感」を与えるやり方から、「自主的・主体的調整体制に転換し、農業経営者の創意工夫を活かす」方向に切り替える。
市場の整備についても、従来の「規制の多い多段階流通と価格形成のあり方が、多様化する消費者ニーズに応えられない状況」にあることを反省して、大綱は「消費者ニーズに応えた産地指定や直結取引などの促進と公正・中立な市場づくりによる複線・多様で安定的な供給体制の確保」という表現で、市場の整備を約束していた。
米山知事の批判は、大綱で約束したことを実現していない国にこそ非があると言いたかったのであろう。大綱を判断基準にしたら、米山知事と柄澤政策統括官の「激論」の軍配は、米山知事に上げたい。
30年産問題にJAも動揺
大綱での約束を国が実行しなかったことは、批判されても仕方がない。少なくとも「生産目安」をめぐる両者の「激論」は、市場が整備されていたら起こり得なかった。現物と先物の両市場が示す価格なり指標の市場のシグナルが、立派な「生産目安」の役割を果たすことになるからだ。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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