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北海道でここ数年、TMRセンター方式が進められてきたのも同じ背景と見てよかろう。牛を生産の基盤である草地から切り離し、その代わりに輸入飼料を主とする配合飼料がベースでは変動経費の増加、また穀物の国際価格変動に常に脅かされる不安定な酪農経営をもたらす原因となる。
PKEの生産国であるインドネシアなどではそのために熱帯雨林の伐採が大々的に進んでおり、環境破壊問題としても注目されつつある。日本が輸入しているアメリカ中西部の穀倉地帯では土壌の極度の有機質の低下が問題となっているが、それは大規模な機械農業、工業的農業が原因である。同じ現象は1970年代に筆者がコンサルティング活動をしていたオーストラリア内陸部の小麦、ソルガム生産地帯でも起こっていた。土壌の有機質を2%台から4%に引き上げることが大きな課題であった。
ニュージーランドでは30年以前は200頭経営の酪農は大きい規模であった。150頭規模の酪農が多く、草を飼料の主体として、ライグラス、白クローバー、コックスフットのミックス草地で、窒素肥料は無、または少量のみ施されていた。施設、土地に対する負債は限られており、乳価格はキロ20円程度と低いにもかかわらず、経営は安定していた。酪農はライフスタイルと見なされていたのである。これは、太字で示した上述の内容と、農用地の土地価格の急激な上昇やフォンテラ社(ニュージーランドに本社がある世界最大の乳製品輸出企業)の国際企業化が起きる前のことである。ここ数年はキロ50円台に上がっているが、経営困難な酪農家が増えているのが現状である。
また近年、規模拡大、乳生産量増加に拍車をかける事態が起こった。それは高泌乳多頭化である。以前安定していた酪農家も、規模拡大を目指すことで借金が増加し、危機的状態に陥ったケースが少なくない。
新たな投資、牛の購入、施設や機械への投資、さらに土地購入と、固定経費の増加が大きな理由である。乳量増加、乳価格の上昇で粗収入は確かに増加するが、反面、投資に対する利子、返済の増加をもたらしているため、その支払いが粗収入の増加を上回ったのである。
SRが最大限にプッシュされたことは、餌不足の問題とPKEの輸入増加、尿素肥料の多用、そして増えた牛の管理のために従業員を雇用する必要から牛の管理に影響し、病気、繁殖の低下、獣医費の増加が大きなウエイトとなり、経営を難しくしている。そのため、少なくない数の大規模酪農が危機に瀕している。
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エリック川辺 エリックカワベ
農学博士、国際コンサルタント、SRU顧問
1940年、東京都生まれ。東京農工大学卒業後、ニュージーランドのマッセイ大学院で草地管理学を専攻し、放牧の原理を追究する論文を執筆する。74年、ニュージーランド国籍取得。その後、ニュージーランドとオーストラリアで大規模草地農業の試験や実践、コンサルティングを20数年間行ない、牧場管理システムに関する10余年の研究論文をまとめ、日本大学で博士の学位を取得する。81年、オーストラリアでEric Kawabe & Associates社を設立。同国を中心にニュージーランドや南米など世界各国で「土-作物・牧草-牛」の生態系を基本とする改善や永続農業を目指すコンサルティング活動を続け、91年からはSRU(Soil Research Union=2017年現在北海道全域の農業者が加入する土壌研究組合)を十勝の6人の若い農業者で発足、北海道をメインに日本でのコンサルティングと永続農業科学の教育指導活動を拡大する。著書に『草地の生態系に基づく放牧と酪農経営』(デーリィマン社)などがある。なお、84年ごろから始めたオーストラリアのコンサルタントを組織するEco-Agコンサルタント協会の会長を20年近く務めたことに加え、日本でのSRUの指導や発展が認められ、2015年に開かれたBrookside Consultants Conferenceの大会で“Hall of Fame”(名誉)賞を受賞した。Brooksideは肥料・薬剤会社から完全に独立した世界最大の土、植物、他の分析所を持つ協会で、それを支持するコンサルタントが世界中で活動し、その大会が毎年アメリカで催されている。今回の受賞は協会の200人を超えるアメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、アルゼンチンの独立系コンサルタントのなかから選ばれたもので、アジア、オセアニア地域では同氏が初の受賞者となった。現在ニュージーランド在住。
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