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Opinion

21世紀の農業のあり方


反対に、規模を小さく維持し、乳量増加に追われない姿勢を堅持している200頭以下の経営を守る酪農家は、新しい設備投資もしていない。土のミネラルバランスに配慮し、尿素施肥を最小限にして草地に白クローバーも維持している。牛は健康である。また、筆者の住む隣の牧場ではブラウンスイスを大いに活用してフリーシアンとのクロス繁殖で放牧に強い牛を作り、成果を上げている。結果として乳量も7000kgまで上げている。損益分岐点はニュージーランド平均よりはるかに低く、経営は安定している。
この現象は1983年の国際畜産会議(WCAP)で筆者が発表した論文のなかで示した方程式で説明できる。

Pn=SL(wtp-Ev)-Eo-(R+I)

Pn=純収益、S=ストッキングレート、L=土地面積、w=生産量(乳、肉)、t=放牧日数、p=価格、Ev=変動経費(餌代、獣医費が大きな比率を占める)、Eo=固定経費、R+I=資本返済、利子返済
ここで規模拡大はR+Iの大幅な増加を意味し、粗収入の比例的増加に対してEvの増加も加わってそれを超える現象が起こりやすくなり、その結果、Pn∧0の赤字経営となりやすい。健全経営では、SL×wtp∨Ev+Eo+(R+I)でなければならない。
土地面積が一定のとき、放牧とその管理技術の向上はストッキングレートを増加させられる。つまり、放牧牛の頭数が増加するのであるが、過度に追求することは間違いである。この点は世界の草地学者が認めている。
土のミネラル管理と草地の栄養管理は牛の増体率、乳生産とその期間(放牧期間)の増加をもたらす。それは草地の生産向上を意味し、牛が健康なことはEvを下げる役割をする。
さらに、余分な土地、機械、牛舎などの投資を抑えることはR+Iを上げない効果がある。それは、この方程式の左辺を上昇させ、右辺を下げる効果を持つ。純収益の向上と健全経営の基本である。
これは効率向上の方法の問題ともいえよう。それを新しい器具、機械、建物、土地に求めるか、または土のミネラルと生態系を学び、草地の生態系を生かす放牧に取り組むことに求めるか。この選択がこの方程式に示される健全経営の鍵となろう。
日本でのTMR推進と高泌乳多頭化政策は外国の飼料生産に頼る不安定な酪農をもたらし、放牧で享受できるメリットを無視するものであり、農家の経営安定化と逆の方向にあるといえよう。
世界のミルク需要は増加しており、インド、中国がその理由といわれる。ミルクの国際市場ができてから価格の変動は激しくなった。それは先売り買いなど、国際企業による投機の対象になったことによると考えられるが、それに振り回されて苦境に陥っている酪農家もニュージーランドには少なくない。

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