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今後の日本と世界農業の方向
では、世界的な動きはどうか? グローバル化、企業農業に反対のグラスルートの動きが広まっている。それは永続農業の追求、家族農業の維持、アメリカで起きている地域社会内での食料流通(CSA=地域社会に支持される農業)などの動きであり、急速に拡大している。
その多くはエコ農業、バイオ農業を追求、土を基本とする生態系の維持を基本とする農業である。それがオーストラリアではPC、アメリカではCSA、エコ農業である。
バイオ、生物学を第一とする農業を唱えるブルックサイドコンサルタント協会(BSPC)は1952年にオハイオ州ニューノッキスビルという田舎の町に設立されて以来、オールブリック理論を基に農家の指導活動を開始し、スカピュラ、メイヒュウ、ベイリーなど優秀なコンサルタントらがその基盤を作っていった。現在その活動は世界的に広がりつつある。土のミネラルバランスを作ること、健康な作物、牛、動物を作ることが第一原則である。そのための理論はすでに半世紀前にオールブリック博士らによって確立されている。また、PCの創立者はBill Morrison(オーストラリア)である。
筆者は21世紀の現在、経済ゼロ成長方式が地球における人類の生存の基本であることを信じ、永続性と生態系の安定を基本とする安定した農業経営を目標とする指導に従事している。それはさらにエネルギー消費を抑え、温暖化する気候を少しでも緩和する方向である。地球のエコシステムは人類の人口増加、企業の生産拡大を支えられない段階に達している。人類は生態系破壊を20世紀に急激に進めてきたためである。経済ゼロ成長と人口縮小は人類が生き延びるための大原則であろう。気候と自然環境に恵まれた日本は“都市から地域への人口移動”“地域農業+地域社会エコビレッジの増加、家族規模の農業を盛んにして自給率の低下を止めること。そして、自給率80%以上の自給自足的経済を目標として進めることが最大の課題であるといえよう。
そのための第一歩は何か? 原点に戻り、これまでの農業のやり方、技術の見直し、なぜいまやっていることをするのか?
技術は与えられた環境、政治、政策によって作られることが多い。日本での農業は戦後の工業化政策のなかで、それを支える産業として位置づけられていた。それは規模が極端に小さい零細農業を経営単位にするために役立ったが、資材、機械、肥料、薬剤、飼料産業を支える産業でもあった。農業科学は本来政策によって左右されるものではなく、技術によって拘束されるものでもない。それは農業本来の土-植物-(動物)牛(消費者)の自然の生態系の確立によって営まれる農業を追求するうえで独立して新しい技術体系を作り出す原動力である。
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エリック川辺 エリックカワベ
農学博士、国際コンサルタント、SRU顧問
1940年、東京都生まれ。東京農工大学卒業後、ニュージーランドのマッセイ大学院で草地管理学を専攻し、放牧の原理を追究する論文を執筆する。74年、ニュージーランド国籍取得。その後、ニュージーランドとオーストラリアで大規模草地農業の試験や実践、コンサルティングを20数年間行ない、牧場管理システムに関する10余年の研究論文をまとめ、日本大学で博士の学位を取得する。81年、オーストラリアでEric Kawabe & Associates社を設立。同国を中心にニュージーランドや南米など世界各国で「土-作物・牧草-牛」の生態系を基本とする改善や永続農業を目指すコンサルティング活動を続け、91年からはSRU(Soil Research Union=2017年現在北海道全域の農業者が加入する土壌研究組合)を十勝の6人の若い農業者で発足、北海道をメインに日本でのコンサルティングと永続農業科学の教育指導活動を拡大する。著書に『草地の生態系に基づく放牧と酪農経営』(デーリィマン社)などがある。なお、84年ごろから始めたオーストラリアのコンサルタントを組織するEco-Agコンサルタント協会の会長を20年近く務めたことに加え、日本でのSRUの指導や発展が認められ、2015年に開かれたBrookside Consultants Conferenceの大会で“Hall of Fame”(名誉)賞を受賞した。Brooksideは肥料・薬剤会社から完全に独立した世界最大の土、植物、他の分析所を持つ協会で、それを支持するコンサルタントが世界中で活動し、その大会が毎年アメリカで催されている。今回の受賞は協会の200人を超えるアメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、アルゼンチンの独立系コンサルタントのなかから選ばれたもので、アジア、オセアニア地域では同氏が初の受賞者となった。現在ニュージーランド在住。
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