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これを機にメディアにも取り上げられ、全国的に名前が知られるようになった。地元の大子町でも観光商工課や観光協会が特産品として宣伝し始め、「奥久慈しゃも」の名声は上がった。
しかし、もう一つの決定打は、焼き鳥界の名門と称される「バードランド」が奥久慈しゃもを使い始めたことであろう(1990年頃、当時は阿佐ヶ谷)。バードランドはミシュランガイド東京2010より星を獲得し続けている名店であるが、店で扱う地鶏は全て奥久慈しゃもである(2001年銀座に移転)。奥久慈しゃもは、売上の12%は銀座バードランド、阿佐ヶ谷店を含めると24%がバードランドとの取引である。
ミシュランガイド高級焼き鳥屋「銀座バードランド」御用達の鶏肉というだけで、もう宣伝は不要。一般の料理店が奥久慈しゃもを求めて行列ができる(特に12月)。営業もしなくて済む。値上げしても売れる。「この値段でよければ買ってください」と、ブロイラーの5倍、100g500円を提示しても売れる(奥久慈しゃも生産組合の経営者高安正博理事の話)。
「デモンストレーション効果」だ。銀座の高級焼き鳥店で独占的に使用されていることで、旨い鶏肉と受け止められ、高級ブランド化した。もはやここまでくると、一番旨いか、ほんとに旨いか等は関係ない。「銀座バードランド」で使われている鶏肉というだけで製品差別化され、高級ブランド化した。(念のため指摘すると、銀座バードランドの店主・和田利弘氏は茨城県日立市出身。茨城を盛り上げる応援団を心掛けている)。
奥久慈しゃもの価格は、もも肉100g500円(税別)(注、ブロイラーは100円)、胸肉は400円(ブロイラー60円)である。デパートで売られている比内鶏(600円)に匹敵する価格である。現在、取引先は主に焼き鳥屋、ほかに鶏料理居酒屋で約200店。全て直売である。
この高価格は、銀座バードランド御用達という製品差別化に加え、もう一つ、“供給制限・需要先行”という営業戦略の効果がある。「常に少し足りない状態を作るように供給を抑制している。そうすることで、価格の決定権を握れる」「営業はしていないが、毎日、新規の料理店から問い合わせがある」(高安理事)。
鶏肉の味は、「品種」「エサ」「飼育期間」で決まる。地鶏の競争は厳しい。「奥久慈しゃも」も、更なる旨さを追求し、競争優位を万全なものにすべく、飼育方法の継続的な改善が求められる。エサについては、数年前から「飼料米」も使用している。今後、生産者によって大きさにバラつきがあるので、それをそろえる等改善の余地がある。育ちのいいものほど美味しい。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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