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新・農業経営者ルポ

再建と躍進、すべては社員の力です。

行き詰まる経営原因は経営者の意識

 農地を取得し、自分で作った作物を販売すれば顧客への責任を取ることができる、品質も守れると考えたが、そうはならなかった。規模の拡大に伴い、機械化を進め、社員や臨時雇用も増やしたが、謙二に大規模柑橘園の経営ノウハウがあるわけではない。むしろ、生産の拡大は経営収益の悪化をもたらし、さらに顧客の満足度も小さくしてしまうという二重の困難に陥っていった。

 当時のことを生美は次のように述懐する。

 「これは自分たちが思い描いた産直の姿ではないと思い始めていました。産直ってもっと楽しいものだったはず。なぜ事業規模を大きくしなければならないのか。こんなにも新しい山を購入する必要がどこにあるのか。私にはわかりませんでした。どこまで事業を拡大するのかと夫に聞いても、『俺がいいと言うまでだ』という答が返ってくる。いったい、いつまでこんなことが続くのか、そんなことを思っていました」

 生美がそう思うのも無理はない。お客さんに対応する立場にいる生美であればこそ、クレームの質が年を追うに連れて変化していることに敏感に気付いていたのだ。もちろん規模が小さい時代にもクレームはあった。しかし、それは真摯に対応すれば自分たちへの励ましにも聞こえるクレームである。それが、「バカ」、「それで商売してるつもり!?」という、ただの罵りに変わっていったのだ。大串農園が顧客から評価すらされない会社になっているという現実を突きつける言葉は、生美の心に深く突き刺さった。

 そうして、いつしか2人の心の間にも溝ができていた。つい感情的になって意見を言った生美に、謙二は「もう、お前の意見は要らない」と突き放した。生美には、謙二と同様に寝る間も惜しんで取り組んできたことや、お客様との対応を通して大串農園の「商売」をやってきたのは自分ではないかという自負があった。規模は大きくとも少しも商売になっていないのではないか。商売があるから生産があるのではないか。そんな思いが募っていたある日、謙二や従業員を前にした生美の口から、「私の大事なお客さんをどうするつもり!?」という言葉も出た。夫や社員たちはどうしてこんなにバカなのだろう。当時の生美には、そう思うことしかできなかった。そして、真剣に離婚を考えた。

 一方、謙二は、当時従業員に対して抱いていた思いをこう振り返る。「農業とはいえ、地元にあるほかの肉体労働系の仕事よりは高い給料を払っている。それなのに社員たちは自分の半分も仕事をしない。1から10まで指示しないと仕事ができない。当時は給料が高ければ人は働くと思っていたんです」

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