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窒素やリン酸は肥料として農業生産に欠かせないが、農地から環境に放出されると水域の富栄養化をもたらす環境負荷物質に一変する。また、肥料の他にも窒素やリン酸は食料として大量に輸入されている。日本の環境を保全するには食料自給率ばかりでなく肥料自給率をも高める必要がある。そのような観点から、化学肥料の利用を最小限にとどめ、リサイクル肥料である有機質肥料を活用することが望まれる。
2.有機栽培(無化学肥料栽培)では土の健康が保てない
化学肥料を一切施さない有機栽培にこだわりすぎると土の健康を損ねることが多く、とりわけ園芸土壌ではその傾向が強い。含有量は異なるが有機質肥料や堆肥には必ず窒素・リン酸・カリが含まれている。魚かすなどを連用すれば土の中にリン酸が蓄積しやすい。さらにカリ含有量の多い牛ふん堆肥などを過剰施用するとカリもたまり、メタボな土になってしまうためだ。土がメタボになれば、土壌病害の発病を助長することは7月号のとおりである。リン酸やカリが過剰になれば、それらを含まない肥料を施せばよいわけだが、窒素しか含まない有機質肥料はない。そこで、お勧めしたい肥料が窒素単肥、すなわち化学肥料だ。
有機栽培こそ、環境にやさしい農業と思っている人も多いが、それも誤りである。長年にわたって無化学肥料・無農薬で野菜を栽培している全国的にも有名な有機栽培農園の調査を行なったことがある。畑から作土を採取して30℃で1年間保温静置した結果、図2のように大量の硝酸態窒素が生成した。剪定枝と食品廃棄物を混合して作った堆肥と自家製ぼかし肥を長期間にわたって施用し続けた結果、土壌中に大量の有機態窒素(地力窒素)が蓄積し、その分解に伴って生成した硝酸態窒素であった。その硝酸態窒素が降雨により下層に移動し、この農園内にある地下水からは環境基準を上回る高濃度の硝酸性窒素が検出された。人の健康にたとえれば、糖尿病を患っているようなものだ。
3.単肥の活用法
今では、基肥ばかりでなく追肥にも化成肥料や配合肥料の施用が当たり前のようになっているが、それ以前には、農家は単肥を購入して庭先で混ぜて使っていた。すなわち、単肥の利用は施肥の原点に戻ることでもある。
露地畑でリン酸が過剰な土には、窒素単肥として硫安か尿素が適切だが、尿素は土に吸着されないので、施用後に大雨が降れば、下層に流れてしまう。また、硫安も施用後1週間程度で硝酸態窒素に変化するので、肥効が持続せず、それが化学肥料の欠点である。そこで、価格は高いが被覆尿素やオキサミド・IBなどの緩効性窒素肥料の施用が有効だ。また、窒素単肥には農薬としても登録されている石灰窒素がある。施用後土の中で生成するカルシウムシアナミドが殺菌・殺センチュウ効果をもたらす。緑肥や水田に鋤き込んだ稲わらの分解促進にも有効だが、石灰窒素が20%の窒素成分を含む肥料であることを忘れてしまう農家が多い。必ず、窒素成分として施肥量にカウントする必要がある。
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後藤逸男 ゴトウイツオ
東京農業大学 名誉教授
全国土の会 会長
1950年生まれ。東京農業大学大学院修士課程を修了後、同大学の助手を経て95年より教授に就任し、2015年3月まで教鞭を執る。土壌学および肥料学を専門分野とし、農業生産現場に密着した実践的土壌学を目指す。89年に農家のための土と肥料の研究会「全国土の会」を立ち上げ、野菜・花き生産地の土壌診断と施肥改善対策の普及に尽力し続けている。現在は東京農業大学名誉教授、 全国土の会会長。
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