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特集

産業用ヘンプの世界の最新動向


近年、注目されるようになったのは、大企業が自動車部品や住宅・建材向けなど麻由来の製品の開発に乗り出したことも影響している。幅広い分野から求められる素材となり、ようやく栽培面積が広がってきたというわけだ。

【国際条約を巡る大きな課題】

産業用ヘンプの栽培が世界各国で拡大するなか、各国では法整備が進められてきた。しかし、国際的な麻薬規制との整合性は、間に合っていない実態が見えてくる。
1961年に制定された「国連麻薬に関する単一条約」には、産業上と園芸上の目的の大麻の栽培には適応しないという記述がある(図6)。しかし、大麻と大麻樹脂は「特に危険な麻薬」として、医薬品に使ってはいけない等級IVに指定されている(表4)。ここでは繊維型と薬用型の品種の区別はなく、大麻は単一に扱われたままなのだ。
この等級IV問題に対して、近年、繊維型と薬用型の品種のそれぞれの観点から世界的に見直す方向に圧力が高まっている。とくに条約の科学的根拠を検討するWHO(世界保健機構)の薬物依存専門委員会(ECDD)には早急な対応が求められ、2016年11月に開かれた同委員会では、1950年以前に大麻を麻薬植物とした国際的な手続きが不十分であったことを認めている。
条約の見直しが必要な理由は難しいものではない。そもそも、マリファナ成分であるTHCの構造が同定されたのは1964年で、単一条約の制定以降のことである。つまり、条約が制定された時点では科学的根拠がなかったのだ。
90年代に入ると、生物には体内でマリファナ類似成分であるエンド・カンナビノイドをつくる能力が備わっていることがわかった。その成果を受けた2000年代には、地球上に生きる脊椎動物(哺乳類、魚類、爬虫類、鳥類、両生類)にとってエンド・カンナビノイドは、神経や免疫などの身体調節機能に欠かせないものであることが突き止められた。つまり、体内でエンド・カンナビノイドを生成できずに欠乏すると病気になり、外部から植物由来のカンナビノイドを摂取することの有用性が見えてきたのである。
これらの研究成果に加えて、嗜好品や医療用大麻の実践的経験によりその安全性と有効性を実感する人々は増加傾向にある。そうなると単一条約の厳しい規制の形骸化は否めなくなるというわけだ。世界的に普及したタバコは、その実害が明らかになるにつれて各国で規制が進み、2005年にはタバコ規制枠組み条約の制定に至る。麻はまさにその逆の道を歩んでいるといえよう。

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