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【土と施肥の基礎知識】
じわじわ効果の「みどりくん」
- 東京農業大学 名誉教授 全国土の会 会長 後藤逸男
- 第22回 2017年10月02日
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化学肥料より有機質肥料で作った野菜の方がおいしいといわれることが多い。本当だろうか。
農産物の品質やおいしさにはさまざまな要因が知られているが、糖やビタミンC含有量には窒素の効かせ方がポイントとなる。養分の中で窒素は植物生育に最も大きく影響し、植物体中のタンパク質をはじめ、核酸、クロロフィル、各種の補酵素など主要な生体構成成分となる。そのため、この窒素を効率よく効かせる必要がある。
図1のように、植物の根から吸収された硝酸は酵素の働きでアンモニアに変わる。さらにアミノ酸、ペプチドを経てタンパク質となり、光合成で作られたデンプンとともに植物体を大きくする。無機物である硝酸とアンモニアは窒素・酸素・水素を成分とするが、有機物であるアミノ酸・ペプチド・タンパク質には炭素が含まれている。すなわち、植物の中でアンモニアからタンパク質が作られる過程で炭素の供給が必要になる。この炭素は、葉で光合成により作られるデンプンが供給源だ。デンプンは水に溶けないので、酵素の働きで水に溶ける糖に変化して体内を移動し、この糖がタンパク質合成に使われる。ビタミンCは野菜に含まれる重要な機能性成分で、品質に大きく影響するが、このビタミンCは糖から変化してできる。
尿素や硫安などのような水に溶ける速効性化学肥料を使って野菜を栽培すると、土の中に急速に硝酸が生成して、野菜にどんどん吸収されるため、野菜中の硝酸含有量が高くなる。これらの硝酸はアンモニア、アミノ酸などを経てタンパク質になるが、この過程で糖を横取りしてしまうため、野菜中の糖とビタミンC含有量が減る。一方、油かすなどのような有機質肥料では、土壌動物と微生物の働きで徐々に分解して土の中にゆっくりと硝酸を生成する。野菜の根はじわじわと硝酸を吸収して徐々に大きくなるので、糖の横取りも少なく、糖やビタミンC含有量が増加する。野菜中に糖が増えれば甘くなるのでおいしくなり、また糖が多い野菜ほど保存性も向上する。このような理由で、化学肥料より有機質肥料で作った野菜の方が高品質になるわけだ。ただし、窒素の施用量が同じ場合での比較である。有機質肥料をたくさん施用して、野菜の収量を上げようとすると、糖・ビタミンC含有量が減ってしまう。従って、有機質肥料を使えば、高品質野菜ができるというわけではない。
2.化学肥料でも
ひとくちに有機質肥料といっても土壌中での窒素放出スピードには大きな違いがあり、原料となる有機物の炭素と窒素含有量の比である炭素率が影響する。土壌自体の炭素率はおよそ10であるので、10より低い有機物を施用すると窒素が無機化してアンモニア態窒素が生成する。逆に、炭素率が10以上の有機物を施用した場合には土壌中の無機態窒素が取り込まれて、作物は窒素飢餓という生育阻害を受ける。有機質肥料の炭素率は3~7で、乾血や皮粉などで3、魚かすや大豆油かすで4、菜種油かすなどで6程度となっている。この炭素率が大きな有機質肥料ほど「じわじわ効果」が高まる。
図1のように、植物の根から吸収された硝酸は酵素の働きでアンモニアに変わる。さらにアミノ酸、ペプチドを経てタンパク質となり、光合成で作られたデンプンとともに植物体を大きくする。無機物である硝酸とアンモニアは窒素・酸素・水素を成分とするが、有機物であるアミノ酸・ペプチド・タンパク質には炭素が含まれている。すなわち、植物の中でアンモニアからタンパク質が作られる過程で炭素の供給が必要になる。この炭素は、葉で光合成により作られるデンプンが供給源だ。デンプンは水に溶けないので、酵素の働きで水に溶ける糖に変化して体内を移動し、この糖がタンパク質合成に使われる。ビタミンCは野菜に含まれる重要な機能性成分で、品質に大きく影響するが、このビタミンCは糖から変化してできる。
尿素や硫安などのような水に溶ける速効性化学肥料を使って野菜を栽培すると、土の中に急速に硝酸が生成して、野菜にどんどん吸収されるため、野菜中の硝酸含有量が高くなる。これらの硝酸はアンモニア、アミノ酸などを経てタンパク質になるが、この過程で糖を横取りしてしまうため、野菜中の糖とビタミンC含有量が減る。一方、油かすなどのような有機質肥料では、土壌動物と微生物の働きで徐々に分解して土の中にゆっくりと硝酸を生成する。野菜の根はじわじわと硝酸を吸収して徐々に大きくなるので、糖の横取りも少なく、糖やビタミンC含有量が増加する。野菜中に糖が増えれば甘くなるのでおいしくなり、また糖が多い野菜ほど保存性も向上する。このような理由で、化学肥料より有機質肥料で作った野菜の方が高品質になるわけだ。ただし、窒素の施用量が同じ場合での比較である。有機質肥料をたくさん施用して、野菜の収量を上げようとすると、糖・ビタミンC含有量が減ってしまう。従って、有機質肥料を使えば、高品質野菜ができるというわけではない。
2.化学肥料でも
「じわじわ効果」
ひとくちに有機質肥料といっても土壌中での窒素放出スピードには大きな違いがあり、原料となる有機物の炭素と窒素含有量の比である炭素率が影響する。土壌自体の炭素率はおよそ10であるので、10より低い有機物を施用すると窒素が無機化してアンモニア態窒素が生成する。逆に、炭素率が10以上の有機物を施用した場合には土壌中の無機態窒素が取り込まれて、作物は窒素飢餓という生育阻害を受ける。有機質肥料の炭素率は3~7で、乾血や皮粉などで3、魚かすや大豆油かすで4、菜種油かすなどで6程度となっている。この炭素率が大きな有機質肥料ほど「じわじわ効果」が高まる。
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後藤逸男 ゴトウイツオ
東京農業大学 名誉教授
全国土の会 会長
1950年生まれ。東京農業大学大学院修士課程を修了後、同大学の助手を経て95年より教授に就任し、2015年3月まで教鞭を執る。土壌学および肥料学を専門分野とし、農業生産現場に密着した実践的土壌学を目指す。89年に農家のための土と肥料の研究会「全国土の会」を立ち上げ、野菜・花き生産地の土壌診断と施肥改善対策の普及に尽力し続けている。現在は東京農業大学名誉教授、 全国土の会会長。
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