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化学肥料といえば速効性肥料と思われがちだが、最近では緩効性窒素肥料や被覆肥料が広く使われるようになった。これらの肥効調節型化学肥料を使えば、窒素成分の溶出を緩慢化して有機質肥料と同等の糖やビタミンC含有量の多い野菜を作ることができる。また、肥料成分として窒素のみを含む単肥であるため、リン酸やカリが蓄積しがちの野菜や花卉など園芸土壌にはぴったりの高機能窒素肥料だが、価格の高いことが玉にきずである。そこで、筆者らが独自に開発した低成分型緩効性リサイクル肥料が生ごみ肥料「みどりくん」だ。
3.生ごみ100%の
生ごみ肥料「みどりくん」
筆者らは、レストランや学校給食などから出る事業系生ごみを原料とし、わずか数時間でしかも都会の中でも製造可能な生ごみ肥料の開発と実用化するための研究を進めてきた。その肥料化技術とは先ず生ごみを80~100℃で乾燥する。事業系生ごみには通常10~20%の油脂分が含まれ、それが炭素率を15程度に引き上げているので、搾油機で油分を搾り炭素率を10程度まで下げた後、ペレット成型加工する(写真1)。堆肥化では、微生物の作用で有機物を分解させ、炭素を二酸化炭素として揮散させることにより炭素率を下げるわけだが、その替わり物理的に炭素を減らす技術が生ごみの肥料化だ。生ごみ乾燥物とそれを搾油しただけの生ごみ肥料(粉状品)、搾油乾燥生ごみを成型した生ごみ肥料(成型品)の土壌中での窒素無機化パターンを比較すると、図2のように搾油とペレット化により土壌中での窒素の有機化が緩和され、相対的に無機化速度が速まる。
この「みどりくん」と市販の有機配合肥料を用いて東京都世田谷区内の野菜畑で栽培試験を行なった。その結果、表1のように「みどりくん」区の生育収量は有機配合肥料区に比べて低下したが、ビタミンC含有量が増加した。また、この肥料は水田でも「じわじわ効果」を発揮する。水稲多収地域の長野県北安曇郡松川村で農家の水田に200kg/10aの生ごみ肥料を湛水2週間前に施用してコシヒカリを栽培した。その結果、表2のように初期生育期が緩慢であったため玄米収量は慣行区に比べて若干低下したが、タンパク質含有量が減り、食味値が高まった。
筆者らが開発したこの肥料を東京農大のスクールカラーにちなんで「みどりくん」と命名し、2010年10月には搾油生ごみ肥料として仮登録が認められた。その後、新規肥料公定規格が設定されるものと期待したが、2017年現在まで毎年仮登録の更新を続けている。
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後藤逸男 ゴトウイツオ
東京農業大学 名誉教授
全国土の会 会長
1950年生まれ。東京農業大学大学院修士課程を修了後、同大学の助手を経て95年より教授に就任し、2015年3月まで教鞭を執る。土壌学および肥料学を専門分野とし、農業生産現場に密着した実践的土壌学を目指す。89年に農家のための土と肥料の研究会「全国土の会」を立ち上げ、野菜・花き生産地の土壌診断と施肥改善対策の普及に尽力し続けている。現在は東京農業大学名誉教授、 全国土の会会長。
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